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小説・エッセイ・評論・コミック、古今東西の髪の毛にまつわる恐怖がぞわりと集う-『黒髪に恨みは深く』

『黒髪に恨みは深く 髪の毛ホラー傑作選』

東雅夫(編)/2006年/347ページ

髪は神に通ずる―古来、毛髪には玄妙不可思議な力が宿ると考えられてきた。豊かに波うつ女性の黒髪は、エロチックな美の象徴となり、恐るべき妄念の化身ともなって、多くの怪談やホラーを妖しく彩ってやまない。『四谷怪談』のお岩様から『リング』の貞子まで、髪の毛にまつわる怖い話、奇妙な話の名作佳品を集成した決定版アンソロジー、ここにざわざわと出現。

(「BOOK」データベースより)

 

 髪の毛にまつわるホラーアンソロジー。小説のみならず、対談、コミック、エッセイ、評論と収録作は幅広い。幅広すぎて肝心の恐怖度が薄れてしまっている気はするが、古今東西のホラー作品にどのように“髪の毛”が関わって来たかを知ることができる。

 巻頭は映画『エクステ』撮影後の園子温を迎えての語り下ろし「エクステ怪談」。加門七海が「女性から恨みを買っている男の前に髪の毛が現れる話」をした直後、座っているテーブルの前に誰のものかわからない髪の毛を見つけた園子温が動揺する、という一幕がある。ノーコメント。

 伊藤人誉「髪」は、いつの間にやら絡みついてほどけず、気づいた時にはすでに逃げることなどかなわない…という髪の毛のイメージそのままの不気味さ描く秀作。加門七海「実話」は、学校の怪談と髪の毛怪談が効果的にフィットした一作。赤江瀑「闇絵黒髪」は、過去に見た長い髪の死体をもとに渾身の一作を描き上げた画家が遭遇する怪奇譚+ミステリ。個人的にホラーとして好みなのはこの3作。東海道四谷怪談の脚本「『髪梳き』の場」、泉鏡花の「黒髪」などはずいぶん時代がかってはいるものの、そこに描かれたホラービジュアルの鮮烈さは昨今の作品にも引けを取らない。

 皆川博子「文月の使者」は、夢と現、生と死が溶け合った中洲という舞台が非常に幻想的で、本書の収録作の中では図抜けた出来。なんなのだろうか、これは。読み直すたびに新たな発見がありそうだし、抱く感想もその度に変わるだろう。要約不可能な傑作だ。

 各作品の扉は、一筋二筋の髪の毛がソロリと挟まっているようなデザインになっており絶妙にぞわぞわする。あとがきによれば、編者が桜桃書房で編んだ『妖髪鬼談』のマイナーチェンジ版のつもりだったが、結果的にまったく異なるコンセプトのアンソロジーになったとのこと。『妖髪鬼談』と被っている収録作は「実話」「女の髪」「黒髪の怪二話」「黒髪」の4作のみである。

 

◆収録作品

園子温/加門七海/東雅夫「エクステ怪談」

伊藤人誉「髪」

加門七海「実話」

宮田登「女の髪」

鶴屋南北「「髪梳き」の場――『東海道四谷怪談』より」

澤田瑞穂「髪梳き幽霊」

モーパッサン「幽霊」

杉浦日向子「黒髪の怪二話」

村田喜代子「生え出ずる黒髪」

泉鏡花「黒髪」

赤江瀑「闇絵黒髪」

小酒井不木「毛髪フェチシズム」

皆川博子「文月の使者」

東雅夫「貞子はなぜ怖いのか ――毛髪とホラーの妖しい関係をめぐって」

★★★☆(3.5)

 

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