『うなぎ鬼』
高田侑/2010年/328ページ
借金で首が回らなくなった勝は、強面を見込まれ、取り立て会社に身請けされる。社長の千脇は「殺しだけはさせない」と断言するが、どこか得体が知れない。ある日、勝は社長から黒牟という寂れた街の鰻の養殖場まで、60kg相当の荷を運べと指示される。中身は決して「知りたがるな、聞きたがるな」。つまり、それは一体―?忌まわしい疑念と恐怖。次第に勝の心は暴走を始め…。いまだかつてない暗黒の超弩級ホラー、登場。
(「BOOK」データベースより)
主人公はいかついコワモテながら小心で弱気な大男(善人とは言い難く、わりとけっこうなクズ男でもある)。どう見てもカタギではない会社に勤めつつ取り立てやデリヘルの送迎などを行っている。そんな彼に舞い込んだおいしい仕事、さびれたスラム街にあるうなぎ養殖場まで荷物を運ぶだけで15万円。荷物の中身は決して覗くなと言われる。タンパク質ならなんでも食べてしまうという貪欲な鰻。近所のホルモン屋で食べた異様に美味い鍋。鍋の中に転がっていた人間の歯のようなもの。いろいろな黒い疑惑が渦巻いていく。そして、ひょんなことから人を殺めてしまった主人公が知った真相とは…。
疑惑が恐怖を生み、恐怖がまた新たな疑惑を生むというホラー+ミステリの完全なる融合。主人公は容貌に反して社会的にも人間的にも弱く哀れな男であり、そんな彼がどんどん深みに嵌っていく様は見ちゃいられないけど見ずにはいられない。ミステリ要素も巧妙で、「あ~、そういうことねハイハイ」と思いながら読み進めていくと、完全に心地よく裏切られることになる。『うなぎ鬼』という完璧なタイトルも含め、作者の手際の良さにすっかり感心してしまった。快作。
★★★★★(5.0)