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模範的有能家政婦が一家に仕掛ける破滅的な罠。盛り上げ方が巧すぎるせいで結末が物足りない?-『家政婦トミタ』

『家政婦トミタ』

高田侑/2012年/308ページ

介護用品会社の社長を務める小笠原明は一家で神奈川の豪邸に越した。大手食品会社に勤める妻と姉弟仲のいい2人の子供。幸せな家庭の見本のような一家だ。共働きの小笠原は子供達のために富田という家政婦を雇う。美しく気が利き、謙虚な富田はすぐに一家の一員として馴染んだ。それと前後して家族の周りで小さな不審事が続くようになる。それは隣人達の仕業と思われたが…。不条理な悪意が襲う戦慄のリアルホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 英米には『ナニー』だの『ゆりかごを揺らす手』だの『ザ・ベビーシッター』だのといったベビーシッターもののホラーが珍しくない(ピエロと並んでホラー的に偏見されがちな職業ではなかろうか)。家庭に入り込んだアウトサイダーという意味では、家政婦もベビーシッターと同じようなものかもしれない。

 裕福な小笠原家に入り込んだ、美しく有能な家政婦・トミタ。トミタの正体は、小笠原が経営する会社の元社員で、練炭自殺した中安の妻だったが一家はそのことを知らなかった…。トミタの心中や動機は明らかにはならないものの、あの手この手で一家を陥れようとする様を読者はハラハラしながら見守ることになる。庭に植えられたトリカブト、物置に放置されたガソリン、一家を監視する中安の母親など、さまざまな爆弾があちこちに仕掛けられるもんだから、中盤辺りからもう「さっさと爆発してくれぇ」と身悶えしてしまう。ラストに至るまでの盛り上げ方は非常に巧いのだが、巧すぎるせいで過剰な期待をしてしまったのか、わりと予定調和な結末にはちょっと不満を抱いてしまう。こちらとしてはトンデモない何かを期待していたのだが。仕事を終えた家政婦は姿を消して当たり前、と言われれば確かにそうである。

★★★(3.0)

 

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