角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

死者と生者の距離の近さが新鮮。バラエティに富んだ中国怪談12編-『棺中の妻』

『棺中の妻』

話梅子/2009年/223ページ

許婚の帰りを待ちわびながら病に臥せり不帰の客となってしまった姉のかわりに、自分と駆け落ちして欲しいと迫る妹。戸惑いながら妹を妻とした許婚に、信じられない事件が起こる表題作の他、恋人にだまされ遊里に売られ夜来香と呼ばれた女や、犬に正体を暴かれる美貌の妻、はたまた意地悪な後妻と入れかわってしまった死んだ前妻などなど…。世にも奇妙な夫婦の愛と裏切りを描いた、大好評の中国の怪談シリーズ第2弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 『中国怪談』の続編で、収録されている話も似たような印象のものが多い。怪談というよりは昔話チックなものが大半を占めており、基本は勧善懲悪なものの、容赦のないバイオレンス展開や想像を絶するクズぶりを発揮する登場人物らがいい塩梅のスパイスになっている。

 「二人目の嫁と緑の目の犬」は日本でもありそうな狐の嫁さん話。「福運を呼ぶ鏡」は、信心深い夫婦が幸せをもたらす鏡のおかげで金持ちになったものの慢心してしまい…という教訓話だが、幸せの鏡を手に入れた坊主とお役所との非常に見苦しいやりとりが大半を占めており、何の話だったか忘れてしまうほど。「鬼の後添い」は継子につらく当たっていた後妻が、前妻の幽鬼に諭されて良心を取り戻す話。表題作「棺中の妻」は死んだ女がその妹に乗り移り、生前の許嫁と結婚するがいろいろとややこしいことになる話。前作でも思ったが、この「幽霊がわりかし普通に生活している」という点は日本の昔話とは大きく異なるポイントだと思う。ちなみに本書の帯には岸本佐和子の「死んでから、平気でお嫁入り。いいなあ、昔の中国。」という推薦文が載っている。

 「二つの家族の数奇な運命」は、あまりにも恩知らずな一族にバチが当たる“もう遅い”系スカっと話。「三世を経るのは、ほんの一瞬」は、タイトルからなんとなく察せられる通り「一炊の夢」のアレンジ話の1つ。「剣仙の革嚢」は堅物男が妖怪に使役される娘を救う話で、映画『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』の原作なのだとか。「西湖の怪」は「剣仙の革嚢」と同じくわかりやすい妖怪が登場し、退治される話。命乞いをいっさい聞き入れてもらえない妖怪たちが不憫に思えるラスト。「二百年目の埋葬」は本書ではおなじみ、死者との結婚がテーマ。

 「夜来香(イエライシャン)」は、男に騙され妓女となった美しい娘の復讐譚。「神になった寝取られ男」は、妻に裏切られた男がブチ切れて妻とその浮気相手、妻の一家の計5人を惨殺するも、いろいろあって神として祀られるようになったという話。バイオレンスさとオチの予測不能ぶりで本書の中でもひときわ印象深い。「煙草を好む幽鬼」は、旅人に一夜の宿を提供してくれた煙草好きの婆さんは実は…というよくあるタイプの怪談。以上12編に加え、「本書を楽しむための用語解説」が巻末に収められている。

★★★(3.0)

 

◆Amazonで『棺中の妻』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp