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グロテスク幻想の極み、小説というジャンル自体の極北、加虐と被虐の乱れ打ち-『壊れた少女を拾ったので』

『壊れた少女を拾ったので』

遠藤徹/2007年/240ページ

ほおら、みいつけた―。きしんだ声に引かれていくと、死にかけたペットの山の中、わたくしは少女と出会いました。その娘はきれいだったので、もっともっと美しくするために、わたくしは血と粘液にまみれながらノコギリをふるいました…。優しくて残酷な少女たちが織りなす背徳と悦楽、加虐と被虐の物語。日本推理作家協会賞短編部門候補の表題作をはじめ五編を収録、禁忌を踏み越え日常を浸食する恐怖の作品集。

(「BOOK」データベースより)

 

 『姉飼』の表題作や「妹の島」で見られたグロ幻想な世界観をさらに突き詰めた結果、危険性とエンターテインメント性マシマシのカルトな1冊が完成した。

 「弁頭屋」は戦時中にある近未来のニッポンで、人間の切り落とされた頭にご飯や惣菜を詰めて売る弁当屋の話。なぜそんなことを? という疑問に対するアンサーがほとんど無いのが本書の特徴で、眼前にパノラマ展開される奇景に対し“暗喩”だの“風刺”だのを見出すことは野暮に思えてくる。人目に紛れて人肉を喰らう女教師を目撃した生徒が、いつしか聖餐を共にする同志となる「赤ヒ月」も、途中までは怪物系のホラーと思わせつつ「あれ、どこか読み飛ばした?」と読み手が頭をひねる描写がサラリと挿入される。

 家電と恋する人間たちのアツい生活(電熱で)を描く「カデンツァ」、完全に狂気に囚われた語り手による凄惨極まりない再生の儀式「壊れた少女を拾ったので」は『姉飼』収録作と同種のテーマを感じる2作。様々な形、時には突拍子も無い形の「加虐と被虐」を描く作風、ホラーというジャンルの根源なのかもしれないと思わせる何かがある。何かがありそうで何もないかもしれないのがこの作者のタチの悪いところだが。地球が無数のダニに覆われて滅亡していく様を複数のエピソードで描く「桃色遊戯」は、本書収録作の中では比較的ストレートな話。とは言え、美しさと気色悪さが同居したこの終末風景、なかなか観られるものではないだろう。

★★★★★(5.0)

 

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