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脳をえぐり肉を削ぐ、猟奇食人鬼の正体を文化人類学でプロファイリング!-『多重人格殺人』

『多重人格殺人(サイコキラー)』

和田はつ子/1996年/237ページ

次々と発見される女性と幼女の死体。その頭からは、脳がえぐり出され、肉がそぎ取られていた。警視庁捜査一課の女刑事水野薫は、犯行の異常性から、民間の文化人類学者と組んで、犯人の心理分析(プロファイリング)に乗り出した。浮かび上がった連続猟奇殺人鬼の別の人格とは。多重人格を徹底取材し描きだす、戦慄の書き下ろしサイコスリラー!!

(裏表紙解説文より)

 

 犠牲者の頭蓋骨に穴を開け、脳を切り取る猟奇殺人事件が連続発生。捜査一課の水野薫刑事は、犠牲者の1人・結城みちると恋仲にあった文化人類学者・日下部遼と組んで調査を進めることに。みちるをモデルにヌード写真集を撮った落ち目のカメラマン・朝倉文丈を怪しいと踏んだ水野だが、さんざん女性問題を起こしつつ今は女装美少年を囲って暮らしている朝倉は、猟奇殺人事件のプロファイリングとはかけ離れていた(それはそれとしてヤバい人物ではある)。日下部はみちるのヌード写真にモチーフとして「彼岸花」「ソテツ」「竹」が使われている点に注目し、それらの共通点に「飢饉」があることを知る。殺人事件の犠牲者の1人である幼女はハムスターを連れて家出しており、またもう1人の犠牲者である漫画家はすずめをキャラクター化した漫画を描いていた。ねずみ(ハムスター)、すずめ、いずれも飢饉と関係が深い生き物。これらの事実が導き出す、カニバリズムに傾倒した犯人の正体とは…?

 

 日下部遼と水野薫の出会いを描く、シリーズの1作目。どちらかと言うと日下部より水野のほうが主人公に近く、誰に対しても物怖じしない気の強さを持つ反面、ちょっとだらしない私生活を送る彼女の姿は後のシリーズとは少々印象が異なるが、日下部との出会いで丸くなったのかもしれない。というか本作での水野は誰に対しても平均的に失礼である。

 数少ない手がかりから、文化人類学者としての知識とコネを用いて犯人像を暴き出していくという構成だが、真犯人はかなり序盤からそれとわかる形で登場しており、ミステリというよりはサイコサスペンスである。えげつないグロ描写も手抜かりなく、ラストの幕切れも見事。残り20ページくらいの時点でまだ聞き込み調査をやっているので、ちゃんと完結するのかと心配したが杞憂であった。個人的な事情に終わらない、スケールの大きな動機を持つ犯人像はなかなかに怖い。シリーズ作の中でも読みやすく完成度の高い一編だ。

 それにしても真犯人、猟奇的なサイコキラーには間違いないが、別に多重人格者ではない。元の人格からしっかり狂っているとしか思えないのだが…。

★★★☆(3.5)

 

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