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読者を昏い欲望で満腹にする、食人鬼の平穏でグルメな日常-『湘南人肉医』

『湘南人肉医』

大石圭/2003年/302ページ

湘南で整形外科医として働く小鳥田優児は、神の手と噂されるほどの名医だった。数々の難手術を成功させ、多くの女性を見違えるほどの美人に変貌させていた。しかし、彼は小さな頃から人肉に対して憧れを持っていた。そして、ある日、手術で吸引した女性の臀部の脂肪を自宅に持ち帰り、食べてしまう。それは麻酔が施されていたため、苦く、おいしいものではなかったが、人の肉を食べるという禁を破ったことに対して、優児は強いエクスタシーを感じた…。

(「BOOK」データベースより)

 

 読者の昏い欲望を存分に満たしてくれる、芳しく危険な1冊。タイトル通り、湘南の医者が人肉を食べる話である。冒頭の第一章で湘南の医者が人肉を食べるので「なるほど、話はそれで終わりですね」となるのだが、驚くべし、特に何も事件が起きないまま、人肉医の普段の生活が事細かに描かれていく。いやまあコイツの「普段の生活」自体が事件なのだが。話がようやく動き始めるのは最終章になってからだが、退屈さをまったく感じないのは作者の筆の冴えによるものだろう。

 作者は同テーマの作品、すなわちイケメンで金持ちで仕事もできてモテモテの連続殺人鬼が、優雅な日常生活を送りつつ殺しの技を披露する…という話を大量に書いている。本作はその中でもホラー要素・ミステリ要素が強く、オチもきれいに決まっておりおすすめの一品だ。

★★★★(4.0)

 

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