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ファンタジー・オカルトホラー・サイコサスペンス・SF・ヒューマンドラマを闇鍋にした吉村印の珍メニュー-『そのカメラで撮らないで』

『そのカメラで撮らないで』

吉村達也/2018年/288ページ

「私には、なぜ人の不幸な未来が見えてしまうの?」これ以上考えられないほど最悪の誕生日を迎え、悲しみのどん庭にいた仁美。なんとか立ち直り、カメラマンとして働き始めた矢先、異常な事態に遭遇する。記念撮影をした老夫婦の悲惨な末路が、デジカメの液晶画面に現れたのだ。未来は変えられないのか?この現象を解明すべく、あの最悪の日にしまい込んだ、血塗られたデジカメを取り出した仁美に、恐ろしい惨劇が襲いかかる!

(「BOOK」データベースより)

 

 恋人の誠に振られて自殺未遂した仁美。病院に駆けつけようとした父は事故を起こし幼稚園児を死なせて獄中で息を引き取り、それを知った母は廃人となった。不幸の連鎖で生きる気力を無くしていた仁美だが、祖母の想い出の場所であるという「蛍坂」で幻想的なホタルの乱舞を目の当たりにし、精神的に立ち直りつつあった。京都でカメラマンとして働き始めた仁美だが、ある日、自分が写真を撮った直後に被写体の悲劇的な未来が見えてしまう現象に遭遇する。そして、自分の不幸の原因となった元恋人・誠が何者かに刺殺される場面すら見てしまう。困惑した仁美は、ひそかに憧れていた先輩カメラマンの一平に相談する。突拍子もないオカルト話にも親身になって対応してくれた一平だが、それもそのはず、彼にも被写体の悲劇の未来を写す能力があったのだ。一平が仁美のことを撮影したその時、現れたのは今まさに病院で息を引き取ろうとする仁美の姿だった。

 原題は『蛍坂』(ワニプラス)。吉村氏の記念すべき200冊目の著作であり、氏の集大成たる記念碑的作品とのことで、確かにホラーでありつつもSF風味のオカルトものであり、ファンタジックな情景や感動的なヒューマンドラマも描かれているのだが、そのおかげで少々主題がブレてしまった印象。蛍坂のホタル乱舞と仁美の得た予知能力の関連性はぼやかされたままだし、ホタルというエモい情景を無理矢理ぶっ込んだように思える。一平がじつは世界の真理を解き明かす研究組織“プロジェクトQ”の一員であり、未来予知能力はアカシックレコード的な何かがアレしているという説を披露する辺りは「いったいこの話はどこへ行ってしまうのだろうか」と不安になる。誠と彼を取り巻くサイコな人物にもう少し焦点を当てればスッキリしたホラーになったのではないか…とも思うのだが、この妙なブレ具合・雑味も含めて吉村達也という気もするので、確かに集大成的な作品なのかもしれない。

★★★(3.0)

 

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