『ぼぎわんが、来る』
澤村伊智/2018年/384ページ
“あれ”が来たら、絶対に答えたり、入れたりしてはいかん―。幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。それ以降、秀樹の周囲で起こる部下の原因不明の怪我や不気味な電話などの怪異。一連の事象は亡き祖父が恐れた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか。愛する家族を守るため、秀樹は比嘉真琴という女性霊能者を頼るが…!?全選考委員が大絶賛!第22回日本ホラー小説大賞“大賞”受賞作。
(「BOOK」データベースより)
大筋自体はある意味非常にシンプルである。都市伝説のような怪異に襲われる一家、少しずつ明らかになる怪異の正体、幼い子供のピンチ、クライマックスは霊能者と怪異との対決…。要約すればオーソドックスな題材を、最大級の火力で調理した極上の作品だ。
章ごとに主人公が変わる形式の小説だが、第一章の「秀樹」の視点から、第二章でその妻「香奈」の視点に切り替わることで、事件の見え方が180度変わった時の衝撃ときたら。「こりゃすげえ!」と興奮と恐怖が一気に押し寄せてくるこの感覚、なかなか味わえるものではない。ホラーというジャンル、その時代時代の社会情勢などから来る不安を反映していてほしい…という(勝手な)思いが個人的にあるが、本作で描かれている「自分も秀樹になっていないか?」 と読者に思わせる恐怖はまさにそれであった。
ひたすら理不尽で強力なものとして描かれる怪異もある意味頼もしい。ぼぎわんが強大であればあるほど、映画でも描かれていたような後半の超絶バトルパートが一層引き立つ。圧倒的恐怖と白熱エンターテインメントの完全なる両立。映画版は本作のテーマと要素を完璧な形で映像にしており、こちらも「映画化の理想形」という感じで大変良かった。小説も映画も「今現在」ならではのホラーであり、当時の最先端でありつつも、この先も末長く親しまれるであろう傑作。
★★★★★★★(outstanding)