『お江戸ふしぎ噺 あやし』
宮部みゆき(原作)、皇なつき(作画)/2021年/208ページ
江戸の長屋に住む少女“おえん”に料理屋での奉公話が舞い込んだ。話がまとまりかけていたところ、約束は突然反故にされる。醜女を嫌った料理屋が、代わりに器量のいい娘を雇い入れたのだ。嫉妬に駆られたおえんは凶運を転じる呪いを試すが、その日を境に恐怖の夜を迎えることになる。「梅の雨降る」ほか、背筋も凍る怪異譚全5編を収録。人気作家2人のコラボによって生まれた傑作江戸怪談の数々、待望の角川ホラー文庫化!
(「BOOK」データベースより)
宮部みゆきの『あやし』から5編をコミック化。皇なつきの艶のある絵は江戸怪談にぴったりの雰囲気で、何より登場人物の“表情”がよい。
巻頭の「梅の雨降る」は、不器量だが芯が強く、しっかり者の姉・おえんの“表情”の移り変わりが重要な一編だけに、ビジュアル化の強みを感じる。弟の箕吉が垣間見たショッキングな顔、そして救済を感じさせる最期の穏やかな表情も印象深い。
「時雨鬼」は、妖艶なおつたの姿と時雨のなか佇む鬼の対比も美しいが、ラスト1ページで描かれたお信の憑かれたかのような“目”が非常によい。「灰神楽」は正統派怪談なだけに原作ではやや地味な印象も受けたのだが、こうしてコミックで見てみると鬼気迫るおこまの顔、命あるかのように舞う灰、正体不明の不気味な怪異など、画になると実に映えるシーンばかりだった。「女の首」は話が進むにつれて太郎の成長ぶりが顔に現れているのがわかるし、黄色い顔の小人、やたら厳めしさが強調されていた差配、そして何より凄まじい迫力の“女の首”もイイ顔をしている。
どの話も原作に忠実であると同時に、コミックの強みを最大限に活かした読み応えのあるものばかりである。巻末を飾る「蜆塚」には、原作にはないちょっとしたプラスアルファの展開が描かれているのだが、これもビジュアル作品ならではの表現である。
原作に勝るとも劣らない、非常に理想的なコミック化であると感じた。小説版とこのコミック版、どちらから先に読んでも存分に楽しめるだろう。
★★★★(4.0)

