『死霊列車』
北上秋彦/2008年/454ページ
東京と出雲市で発生したダーズ(致死的急性狂犬病症候群)が感染爆発、死者1800万人と推定され、政府の主要機関が札幌に移された。ダーズは人を咬むことによって鼠算式に患者を増殖させ、発病後の死亡率は限りなく100%に近い。国民はこのまま滅びてしまうのか。空路が絶たれ、青函トンネル閉鎖の時刻も刻々と迫る中、家族を失った15歳の鉄道少年、翔太はトロッコ列車「おろち号」を運転し北を目指す。タイムリミットホラー。
(「BOOK」データベースより)
非常にわかりやすいゾンビ小説。あとがきによれば『ゾンビ』『ドーン・オブ・ザ・デッド』『バイオハザード』『28日後…』を参考にしたとのこと。感染した肉親との非情な別れ、ゾンビ狩りでヒャッハーする連中、微妙に役立たずの軍隊、いかにも怪しい科学者、ゾンビに噛まれた傷を隠しつつ発症におびえる主要キャラ、意外なゾンビウイルスへの対抗手段…といったお約束はしっかり盛り込まれている。
本作ならではの特徴は、生存者たちがトロッコ列車に乗って松江から青森の青函トンネルを目指す…というシチュエーションにある。列車+ゾンビと言うと映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』が思い出されるが、本作の発表の方が早い。鉄オタの高校生が定年退職したJR職員、博士を護衛するため同行する自衛隊員らの手を借りつつ、生存者を拾いながら北を目指していくわけだが、当然その道中はトラブルばかり。ゾンビの群れはもちろん、燃料の補給や食料の確保、道を塞ぐ脱線した車両や破損した線路、暴走列車にゾンビ狩り連中の関所…。イベントが発生するたびに、どんどんやられていく自衛隊員たちには御苦労様としか言いようがない。列車まわりについての描写はディテールが細かくリアリティがあるもので、イイ感じのプラスアルファになっている。エピローグに関しては「お約束」を雑になぞったような印象しかなく、あまり効果的とは思えないが、求めているものは詰まっているしサクサク読める1冊。
★★★(3.0)