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結婚式に招待した命の恩人は「無敵の人」と化していた…。最後までスリル満載の傑作サスペンス-『招待客』

『招待客』

新津きよみ/1999年/309ページ

高谷美由紀は、結婚を間近に控えた27歳。彼女には幼い頃、増水した川で溺れかかっていたところを通りすがりの男子高校生に助けられたという過去があった。その話を知った友人たちは、その「命の恩人」を結婚披露パーティに招待するよう美由紀にすすめる。当時の新聞記事を頼りに、恩人・井口貴明の住所を探し出し、招待状を送った美由紀だったが…。かつての「恩人」はひそかに豹変していた―。書き下ろし傑作サスペンス・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 慢性骨髄白血病を患った美由紀は、婚約者の拓也や友人たちのサポート、そして骨髄移植により白血病を克服。拓也との結婚式を間近に控えていた。美由紀が7歳の頃、川で溺れかけていたところを通りすがりの高校生・貴明に助けられたことを知った拓也は、命の恩人である貴明を結婚式に呼ぼうと計画する。だが当時エリート高校生だった貴明は社会生活に挫折し、引きこもり生活を送っていた。10年以上のあいだ家から出ることもなく、母親への暴力で鬱憤を晴らし続けていた貴明は、世の中への深い憎しみを募らせており…。そして結婚式の日。やって来たのは招待した貴明ではなく、その母親の富士子だった。親族でもないのに黒留袖(第一礼装)を着込み、スピーチでは貴明の挫折と一家の崩壊の過程を長々と話して周りをドン引きさせる富士子。さらに富士子は美由紀に向かって「わたしのことをもう一人の母親と思って、何でも相談してくださいな」と告げるのだった。そして場面は変わり、白銀の高級マンションのエレベーターで、若い主婦が何者かに刺殺される事件が起きる…。

 暖かな周囲と幸運に恵まれ、善性に基づいて生きる美由紀。家族からも理解を得られず、挫折から立ち直ることなく社会を呪い続ける貴明。対照的な二者の運命は、皮肉にもそれぞれの幸せの絶頂と不幸のどん底にある時期に交わることになる。読者としては第一章で貴明の家庭の異常さを知っているため、積極的に彼らと関わろうとする美由紀たちにハラハラさせられっぱなし。美由紀たちが相手の異常さを確信した時には、すでに取り返しのつかない事態に巻き込まれており…。

 相変わらず先が気になる話の構成が巧く、キャラクターの心理描写も非常にリアル。結婚を前に揺れ動く美由紀と拓也の不安混じりの心情の描き方は白眉である。美由紀を捨てた母親と同居する妹、美由紀に骨髄を提供したドナーでもある刑事、霊感を持つ骨髄移植コーディネーターといったサブキャラクターたちも印象的。ラストも無理なく読者の予想を裏切ってくれ、最後まで緊張感が途切れることがない。サイコサスペンスのお手本のような逸品だ。

★★★★☆(4.5)

 

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