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「食と男と女」がテーマ。サラリと読める初心者向けホラーだが、えげつない一品も-『最後の晩餐』

『最後の晩餐』

新津きよみ/2014年/279ページ

以前生涯学習センターで男の料理講座の講師を務めた美由紀。帰りが遅くなった晩、真っ暗な夜道で講座の元受講生である年配の男に出逢う。ストーカー被害に怯える美由紀は、親切な申し出に甘えて自宅まで送ってもらうことに、だが、彼女がすがった親切心は意外な方向へ暴走しはじめて―!(「料理講座」)おいしい食事は幸せの象徴、それとも諍いの種?食と男女をテーマに描いた、心理ホラー7編をあつめたオリジナル短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 新津きよみの食と男と女をテーマにした短編集としては2作目にあたる(1作目は『意地悪な食卓』、3作目は『フルコースな女たち』)。
 「ペアカップ」-病死した女性の魂が、夫と使っていたペアのマグカップに憑依する。よりによって後妻に使われることになってしまった前妻(カップ)は、心中穏やかではなかったが…。「料理講座」-シニア向けの料理講座を受け持っていた女性講師がなんかを勘違いしたストーカーに狙われる、というわりと普通にありそうな話。「悪阻」-妊娠し、悪阻が始まることで感覚が鋭くなり、予知夢を見るようになった女性。彼女が最後に見た予知夢は、不倫相手であるお腹の子供の父親に絞殺される夢だった…。「卵を愛した女」-卵料理が得意な里美は、卵の殻で作るエッグアートを趣味とする玲子と卵料理の専門店を出すことになった。玲子がエッグアートに目覚めたのは、自分が不妊症で卵に対する嫉妬が憧れに変わったからだという…。想像しうる限りの最悪の結末がそのままお出しされる、えげつなさでは本書随一の一品。「食の事件簿」-グリコ・森永事件、和歌山毒入りカレー事件、雪印牛肉偽装事件といった食にまつわる事件にまつわる覚書やインタビューがずらりと並ぶ、ノンフィクション風の一品。こんなのあったな~と普通に懐かしい気持ちになってしまった。「献立」-妻子ある男と不倫中の主人公は、かつて母親が父の不倫相手に対して行ったとある仕打ちの真意に気づき…。結婚生活につきものの「献立どうするか問題」に男女の機微、ちょっとしたミステリ要素を加えた実に作者らしい短編。「最後の晩餐」-この世を去る人々が「最後に食べたいもの」を食べさせてくれるレストラン。主人公は知らぬ間に自分がその席に座っていることに気づき…というファンタジックな話。

 心理ホラーと超自然的なホラーが適度に入り交ざっているが、作者の本分は前者にあるようで、特に「卵を愛した女」は妙なインパクトを残す。とは言えそれほど怖くはなく、サラリと読めるホラー初心者向けの短編集。

★★★(3.0)

 

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