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恋する少女の執念+殺された女性の怨念が新婚生活に向けて狂気のエスカレート!-『婚約者』

『婚約者』

新津きよみ/1997年/535ページ

雪子の憧れの人は、八歳年上で大学生の従兄・賢一。大人になったら賢一と結婚したいと真剣に願っていた雪子だが、賢一は彼女の気持ちに気づかず、同い年の女性・由貴と親しくなっていく。このままでは由貴に賢一を奪われてしまう…そう思ったとき、雪子の心の中に生まれたものは?少女の無邪気な残酷さと、大人の女のしたたかさを描く、傑作ホラー・サスペンス。

(「BOOK」データベースより)

 

 第一章「従兄-いとこ-」第二章「婚約者」第三章「夫」と、主人公の雪子と彼女が憧れる賢一との関係性がそのまま章題となり、併せて作品のカラーもがらりと変わる構成がなかなか面白い。第一章ではお嬢様育ちの11歳・雪子が大学生の従兄・賢一に家庭教師をしてもらい、彼に惹かれていく様が描かれている。賢一からすれば雪子はほんの子供に過ぎず、一方の雪子は賢一の言葉をプロポーズと曲解、将来はこの人と結婚するのだと思い込んでしまう…という少女漫画みたいな展開だが、賢一に近づく同年代の女性を敵視し、賢一の前では計算高く振る舞う雪子の姿をじつに事細かに描くのだから、その不穏さはただ事ではない。視野の狭い子供が思い込みで行動する様子を見せつけられるのがこんなに怖いとは思わなかった。賢一が同い年の女性・塚本由貴と親しいことを知ってしまった雪子はある計画を実行するのだが、雪子の見ている前で由貴は、何者かによって殺されてしまう…。

 そして年月は過ぎ、晴れて賢一と結婚することになった雪子。だが彼女の元に殺されたはずの塚本由紀から、純白のウエディングドレスが届く。それは由貴がかつて着るはずだったドレスであり、しかもその寸法は雪子の身体にぴったりになるよう仕立てられていた。いったい誰がこのドレスを送ったのか。死んだはずの由貴の無念が届けられたのだろうか…?

 と、いう感じで序盤はサスペンス、後半はミステリ、そして終盤はしっかりとホラーな展開を見せてくれる。個人的には不安定な少女の心理を綿密に描き切った前半部分が好みで、親友の夏美に思い込みの激しさをズバズバ指摘されてしまう雪子、いつしか雪子に感情移入してしまい賢一と対等の話し合いをする夏美のシーンなどはその危うさにハラハラしてしまう。最序盤こそややかったるい感じはあるが、常に緊張感を漂せつつ、予断を許さない雰囲気のまま500ページ超をスラスラ読ませる手際の良さはお見事。

★★★★(4.0)

 

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