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犯人も探偵役も被害者も全員病み過ぎ、サイコ揃いのサイコミステリ-『ママに捧げる殺人』

『ママに捧げる殺人』

和田はつ子/2004年/220ページ

女子大生の愛奈は、家事をこなし、家族の面倒を見る真面目な学生と思われていた。だが、彼女自身は母親に厳しい監視を受けていた。下着からアクセサリー、スカートや化粧品まで、愛奈の身につけるものは全部、母が選ぶ。生まれた時から二十一歳になったいまでも、そうだった。一方、精神科医の加山知子は男性の咽を掻き切るという猟奇連続殺人事件の犯人を追っていた…。拒食症、セックス、母娘。女性の心の奥底に潜む闇をえぐり出す衝撃の問題作。

(「BOOK」データベースより)

 

 毒親の影響下にある女子大生・愛奈。拒食症でリスカマニアで潔癖症でマゾヒストで風邪薬中毒の彼女は、行きずりの男を殺害してはペニスを切り取る連続殺人鬼でもあった…というお話。大変わかりやすい犯人像だが、本作に出てくる登場人物はみなどこかに深い心の傷を抱えている。愛奈を苛む母親、見て見ぬふりをする父親、姉に欲情する浪人生の弟といったロクでもない愛奈の一家だけでなく、謎解き役の精神科医・知子も、その離婚した夫も、レズビアンの友人も、愛奈のクラスメイトたちも、みな多かれ少なかれ(“多”である人がほとんど)病んでいる。愛奈が殺人を重ねるとともに、彼女以外の登場人物らの心の闇も少しずつ明らかになっていき、最後にして最大の謎が暴かれるとともに、物語も臨界点を迎える。
 サイコミステリとしては少々やり過ぎ感もあり、感情移入を拒むほどにエキセントリックなキャラしか出てこず、人物描写が丁寧になるほどリアリティが薄れてしまう。このやり過ぎ感のおかげで。全てが集約し大爆発する救いの無いラストが印象深いものになっているとも思うが。
 角川ホラー文庫版は光文社文庫版を加筆訂正したもの。設定に手を加え、かたせ梨乃主演「警視庁心理分析捜査官・崎山知子」シリーズの2作目としてドラマ化されている。

★★★(3.0)

 

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