角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

他人の家庭事情から垣間見える漆黒。小説2編は傑作だが、コミック7編の印象がイマイチ薄め『ワイドショー』

『ワイドショー 内田春菊ホラー傑作選』

内田春菊/2004年/236ページ

気がつくと、ワイドショーを見ていないのは私だけだった。「なんで見ないの?」と訝しがられるがそれって、そんなに変なことなの?遊びに行った恋人の家にも、ワイドショーを見る母親が。この違和感は、いったい、何なのだろうか―。日常の、思いがけない隙間にひそむ怨みと嫉み。その有り様を、ときに容赦なく、ときに切実な思いですくいとった作品の数々。書き下ろし短篇「ワイドショー」を含むホラー傑作選。

(「BOOK」データベースより)

 

 小説2本とコミック7本を収録。巻頭書き下ろし小説「ワイドショー」は、テレビのワイドショーを見ない女子大生の話。ワイドショーが情報源になっている人々へ抱く“微妙な違和感”が彼女の中で膨れ上がっていく様子がなんともリアル。「悪気はない」と作中で言われている人物の、悪意なきタチの悪さには背筋が冷える思い。もう一編の小説「主婦と性生活」は、ファミレスで語られる主婦同士のよもやま話が、いつしか夜の生活の話になるのだが、とある夫婦の営みは強烈な違和感を感じさせる内容で…。家庭での性生活という、個々のプライベートな日常に紛れ込む非日常を描いた佳品。オリジナルアンソロジー『異形コレクション25 獣人』に収録された短編であり、獣人テーマでこういう作品を書いてしまえるのはこの作者ならでは。

 以降はコミック作品が続く。過干渉な母親が、娘の不義理な恋人を手に掛けるサイコサスペンス「盗聴」。とあるカツラ男にまつわる、階段に出る幽霊の怪談「かいだん」。殺したはずの同僚からの電話やファクスに追い詰められる女「真昼の幽霊」。文学少女が抱く小説家へのほのかな恋心が凶行へとつながる「由起子ちゃんは雑草の中」。冴えないセールスマンの前に現れる、美しい手の女性。だが、彼女は“手”以外を見せることがなく…「奥さん渡辺です」。銀の鈴の中に棲む妖精一家と、鈴を拾った女性のクリスマス「シルバー・ベル」。処女にコンプレックスを持つ女子大生が、陽キャだらけの学生サークルで連中の正体に気づく「真相」。コミックの方は正直なところ凡庸な幽霊モノが多く、『隣人 内田春菊ホラー傑作選』の収録作と比べるとどうも印象が弱い。明らかにホラーではない作品も混じっているし…。小説2本は確かに傑作なのだが、少々物足りない読み応えではある。

★★☆(2.5)

 

◆Amazonで『ワイドショー 内田春菊ホラー傑作選』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp