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やや古典的な怪談が目立つアンソロジー。遠野(とおの)物語のダジャレ…ってコト!?-『十の物語』

『十(とお)の物語 現代ホラー傑作選第3集』

高橋克彦(編)/1993年/281ページ

現代怪奇小説の第一人者が、独自の恐怖観を持って選び出した本当に怖い話。

収録作品

山田風太郎「人間華」

山村正夫「魔性の猫」

三橋一夫「角姫」

夢野久作「卵」

岡本綺堂「兜」

中津文彦「すてきな三にんぐみ」

香山滋「月ぞ悪魔」

都築道夫「狐火の湯」

佐々木喜善「ザシキワラシ」

(裏表紙解説より)

 

 山田風太郎「人間華」は猟奇で知られる氏の作品の中でもひときわ鮮烈なビジュアルを放つ。この手のアンソロジーでは常連のような夢野久作だが、「卵」は少年の淡い恋が鬱屈したドロドロと紙一重であることを描きつつ、妙に爽やかな終わり方をするヘンな作品。香山滋「月ぞ悪魔」は冒涜的な人体改造ネタを、妖しくも美しく描く猟奇的傑作。この三者の短編はやはり群を抜いている印象。

 ユーモア小説で知られる三橋一夫「角姫」は、「嫁入りを前にしてなぜか額に角が生えてしまった娘の話」とかいう題の漫画にしてTwitterに載せればバズ間違いなしのほのぼの系ラブコメだった。中津文彦「すてきな三にんぐみ」は、幼い頃に池で溺れて死んだはずの女の子が目の前に現れて焦燥する主婦の話。事件の真相はなんら意外性のないものだが、ラスト数ページのオチが凄まじくほとんどコントの域である。佐々木喜善「ザシキワラシ」は、本書の各話の合間をつなぐ数ページの掌編×9編からなる連作。今読むとザシキワラシとはまた別の妖怪なんじゃないか、と思えるものも多い。この話が収められているのは本書のタイトル『十の物語』と『遠野物語』のダジャレであろう。脱力。

 高橋克彦が現代怪奇小説の第一人者かどうかは意見が分かれるところだが、収録作品はわりと古典的というか、「怪談」の域にあるものが多い印象(9割がた「ザシキワラシ」の印象かもしれないが)。微妙にコンセプトの不統一が気になるものの、一編一編はなんだかんだで平均以上に楽しむことができた。

★★★(3.0)

 

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