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自分を変える「おまじない」がケガレを呼ぶ。洒落怖な雰囲気漂う佳作-『檻降り騙り』

『檻降り騙り』

木古おうみ/2024年/256ページ

『領怪神犯』木古おうみが贈る、極上の浸食系ホラー開幕!

「読みからおはりや、書く遊ばせたまえ、降りおりて、語りかたりましませ」

学校で、居酒屋で、読み聞かせボランティアで、各所で囁かれるその"おまじない"は、唱えたものに勇気を与えてくれるという。

不登校の姉が別人のように明るくなったことに戸惑う少女。他人と上手く関わることができない青年。過去の事件で記憶の欠落を抱える大学生。

彼女達、“おまじない”を唱えたものの元には「ケガレ」と呼ばれる怪異が訪れる。
「ケガレ」に乗っ取られ、ゆったりと蝕まれる現実は、蕩けるように甘美で歪で――

(Amazon解説文より)

 

 「第一部 籠原朝香」-朝香の姉、夕菜は不登校児だったが、ある日を境に一変。明るく社交的になり、趣味のホラー小説も捨て、無事高校に入学し友人たちもできた。だが薄気味悪い男が姉の周りをうろつくようになり、夕菜も時おり不審な行動を取るようになる。姉の奇行に耐えきれなくなり、家を飛び出した朝香。夕菜の友人・折内恵斗と偶然出会うが、何も言うことができないまま帰途へとついた朝香。そして彼女を待つ最悪の悲劇…。

 「第二部 穴水健」-内気な大学生のかけるは、レポートのために自死遺児支援団体‟ことりの家”でボランティアをすることに。得意の怪談を披露するが、数年前に家族を亡くした少女・籠原朝香のトラウマを抉ってしまうことになり反省する。だが‟ことりの家”の子供たちに教えてもらった‟おまじない”を実行して以降、健の性格は一変。明るく社交的になり、同じボランティア先で友人になった折内恵斗も驚くほどだった。だが健は、自分の中にいる得体のしれない何かの存在が大きくなっていることに恐怖を抱く。‟ことりの家”運営の自称霊媒師・暁山美鳥は、健の異変にいち早く気づいたのだが…。

 「第三部 折内恵斗」-親しい友人を続けさまに失ってしまった折内恵斗。自分の周りではなぜか人が死ぬ。それもあり得ない方法で。思い悩む恵斗の前に現れたのは、意外な人物だった…。

 

 人間に憑依する「ケガレ」に魅入られた人々の恐怖を描く、オーソドックスな憑きものホラー。等身大で親しみやすい登場人物たち、ケガレに対抗する霊媒師「ハガシ」の活躍、ケガレをばら撒いている黒幕にまつわるちょっとしたミステリ要素など、スイスイ読めると同時に印象深い佳作である。プロローグ・エピローグの構成も完璧だ。

 美鳥の従兄弟である‟最強のハガシ”は少々頼りがいがあり過ぎ、彼の登場以降は「破ァ!!!」「寺生まれってスゴイ…」的な展開になってしまうのでもうちょっと苦戦させてほしかった気もするが、彼のバックボーンのおかげか陳腐さは感じない。欲を言えば苦戦したうえでもっとグチャグチャになってほしかった気がする。そういうヘキをくすぐるキャラである。

★★★★(4.0)

 

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