『呪脈の街』
荒川悠衛門/2024年/304ページ
”泣き女”は、全てを知っている――。街に渦巻く怨念の正体とは。
一葉(ひとは)には母と2人だけの秘密があった。正体不明の異形――「泣き女」が見えるのだ。危害を及ぼすでもなくただ街を徘徊するだけの彼女たちと生きてきた母。その母が突然姿を消した。最近は奇妙な噂を聞いては怪異に悩まされる人々の相談に乗っていたようで、そこには泣き女が関わっているらしい。行方を追ううちに一葉も様々な怪異に巻き込まれ……。母の失踪と泣き女の正体、その衝撃の関係とは。戦慄のホラーミステリ!
(Amazon解説文より)
一葉の母親、アキちゃんが居なくなった。奔放な男性遍歴を持ち、娘には自分のことをちゃん付けで呼ばせる変わり者の母親・秋穂は、一葉と大喧嘩をして以降、姿を消してしまった。母親の元恋人であるチャラめの金髪男のネズ、地元の大企業の社長・竹谷と知り合い、共にアキちゃんの行方を探すことになった一葉。母はどうやら「泣き女」を追っていたことがわかる。幼いころから、一葉と母だけが見ることができた泣き女たち。人の感情を揺さぶり、時には死に至らせる正体不明の怪異。この街にはいたるところに泣き女がいる。彼女らの目的は何なのか。母はどこへ消えたのか。自分たちの暮らすこの街に、いったい何が起きようとしているのか…。
主人公の一葉は「泣き女が見える」という体質の持ち主だが、別に霊媒めいた力を持っているわけではなく、ごくごく普通の女子高生に過ぎない。そんな彼女を支えるのが、チンピラ同然の見た目ながら子供好きで情に厚いネズ、理屈と正論で相手を詰めがちながら心の奥底に情熱を秘めた竹谷といった大人たちである。行方不明になった母の足取りを追いつつ、「泣き女」にまつわる怪奇事件を調査する…というのが大筋だが、この怪異がかなり怖い。泣き女に魅入られた幼児と、子供を愛しつつもその不気味さに耐えられない母親の葛藤が描かれる第一話。老人たちが最後に残された居場所を守るために凶行に走る第二話。娘の死により崩壊へと向かう家庭を描く第三話。そしてすべてをひっくり返す事実が明らかになる第四話…。中でも第二話の老人たちはかなり救いがなく、この類いの‟厭さ”が味わえる小説にはなかなかお目にかかれない。作者の力量の賜物だろう。トータルで見れば「いい話」で完結する成長物語だが、わりとガチ目の恐怖もしっかりと描かれた良作である。表紙イラストもさりげない泣き女のビジュアルが非常に良い。
★★★★(4.0)