『ここにひとつの▢(はこ)がある』
梨/2024年/256ページ
この■を持っていると、恐ろしいことが起きる。
フリマアプリで、「カシル様専用」として箱を出品すると、必ず落札される――。ある学校で流行っていたちょっとしたお小遣い稼ぎ。しかし、これにはある決まりがあった。カシル様への箱には、中に何も入れてはならない。中にうっかりメッセージカードを入れてしまった男子生徒の運命とは。(「カシル様専用」)
「すべてのことばをみつけてつなげよう!」 何の変哲もないクロスワードパズル。あなたはそれを解いていたはずだった。普通のパズルとは違うと気づいた瞬間には、もう元には戻れない。(「穴埋め作業」)
中に閉じ込められているものは何か。新進気鋭のホラー作家が描く、恐怖の連作短編集!
(Amazon解説文より)
▢にまつわる8つ(+α)の短編を収録した連作集。この本自体が「ザ・梨」とでも言うべき怖さ、厭さ、謎さ、匠さを内包した▢であり、現代ホラーの最先端という帯の一文は決して誇張ではない。
「邪魔」-久々に故郷へと帰って来た上尾は、幼いころによく遊んでいた彩香と再会する。上尾を家に招いた彩香は、妹の衣里が「車に轢かれたことが原因で、暫くして死んでしまった」と話す。彼女がマッチ箱を忌避する理由とは。どことなく不自然でぎくしゃくした会話を訝しみつつ読んでいたら、ストンと腑に落ちる展開に。巻頭から‟掌で弄ばれている”感がたまらない。
「放課」-職場でのたわいない会話を聞きながら、小学6年生のころの‟抜け落ちている記憶”を思い出す。1年生の男の子・みちとくんの面倒を見ることになった私は、彼のお道具箱を開けて違和感を覚える…。この題材にはまだこういう変化球があったのかと感心する一編。
「カシル様専用」-そのフリマアプリでは、‟カシル様専用”と書いて箱を出品すると必ず落札されるという噂があった。だが「箱の中に何も入れてはいけない」という決まりを破り、メッセージカードを入れてしまった男子生徒がいて…。専用出品というネットならではのルールを主題にしつつ、ある意味で古典的なオチと現代的な気味の悪さがマッチングした快作。
「練習問題」-問1:ここに、ひとつの箱があります。
「京都府北部で発見されたタイムカプセル」-私にとってあなたは想像上の人物だった。物語の人物だったあなたは、けだものの私を助けてくれた…。鮮やかな展開のショートショートだが、繊細で手抜かりのない構成。
「穴埋め作業」-ヒントを参考にしながらマスに言葉を埋めていこう!
「虹色の水疱瘡、或いは廃墟で痙攣するケロイドが見た夢の中の風景」-幼い僕は、目の前で横たわる叔父の身体に顔を寄せた。ぱんぱんに詰まった体液。高揚しつつも舌先でそれを舐めとる。甘くかぐわしい香りを、僕は卑しくも愉しむのだった――。耽美ながらも生理的嫌悪感をもよおす、悪夢的で幻想的な一編。
「箱庭」=▢▢▢▢
初版は帯のQRコードから、SCPチックな書き下ろしSSを読むことができる。さらに限定特典の折り紙付き。これであなたも▢を作ってみよう。折り方指導もついているよ! 私はパーフェクト不器用なので工程⑥の時点でこんがらがり、⑪で絶望を感じ、結果的に15分かかったけど見事に完成しました。つまり、