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“犬”を縛り付ける虐待の連鎖。キャラノベルに見せかけて相当にトリッキーなミステリ-『虜囚の犬 元家裁調査官・白石洛』

『虜囚の犬 元家裁調査官・白石洛』

櫛木理宇/2023年/400ページ

残酷でおぞましい事件に隠された真実とは。衝撃的結末に、撃ちぬかれる。

穏やかな日常を送る、元家裁調査官の白石洛(しらいし らく)は、友人で刑事の和井田(わいだ)から、ある事件の相談を持ち掛けられる。白石がかつて担当した少年、薩摩治郎(さつまじろう)。7年後の今、彼が安ホテルで死体となって発見されたという。しかし警察が治郎の自宅を訪ねると、そこには鎖につながれ、やせ細った女性の姿が。なんと治郎は女性たちを監禁、虐待し、その死後は「肉」として他の女性に与えていたという。かつての治郎について聞かれた白石は、「ぼくは、犬だ」と繰り返していた少年時代の彼を思い出し、気が進まないながらも調査を開始する。史上最悪の監禁犯を殺したのは、誰? 戦慄のサスペンスミステリ!

(Amazon解説文より)

 

 ビジネスホテルで殺害された若い男。彼・薩摩治郎の正体は女性を犬のように監禁し、死後はその肉を監禁中の他の女性に食べさせる猟奇殺人者だった。そんな治郎を殺害した犯人の正体は…? という上記のあらすじ部分の内容が第一章。治郎を引き籠りにさせた直接的な原因である暴力的な父親、父に逆らえない母親、薩摩家に強い恨みを持つ一家、殺された女性の義父…。一癖も二癖もある、というか端的に言ってロクでもない関係者がぞくぞく登場する。
 主人公の白石は担当していた少年に関する事件をきっかけに家裁調査官を辞め、妹と同居しながら専業主夫として暮らしている。要はただの一般人なのだが、機転とハッタリの利いた話術、過去のトラウマを乗り越えんとする意志の強さを持った気持ちのいい男である。薩摩治郎の件に関わるのは、親友の刑事・和井田に協力を頼まれたからではあるが、それ以上にかつての治郎少年の姿が、猟奇的な犯罪者として報じられた彼と結びつかないからであった。この事件には、何か裏があるのではないか…。そう白石と読者が確信したころにはじまる第三章では、完全な新キャラである中学生の海斗と未尋が主人公になり、親から見放された彼らのたくましくも危うい学生ライフが描写されるので、その予想外の展開にプチ混乱する。本書はなかなかトリッキーな構造のミステリで、その曲者ぶりはラストの第五章で大爆発する。大暴れする物語の手綱を、暴走ギリギリのところで押さえつけてセーブしているといった印象。いやあ参った参った。
 全体を通して語られるのは「虐待の連鎖」であり、元・家裁調査官である主人公ならではの厳しい題材だ。本書の終盤では少年とその友人が父親と義母に牙を向き、完膚なきまでにボコボコにするシーンがあるが、読んでいていちばんスカっとするのはこのシーンだったりする。これもまた虐待の連鎖の行きつく先であり、何も解決はしていないのだけれども。

★★★★☆(4.5)

 

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