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怪奇と猟奇が濃厚に匂い立つ特選短編集。外れ無しの入門編-『芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション②』

『芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション②』

江戸川乱歩/2008年/196ページ

時子の夫は、奇跡的に命が助かった元軍人。両手両足を失い、聞くことも話すこともできず、風呂敷包みから傷痕だらけの顔だけ出したようないでたちだ。外では献身的な妻を演じながら、時子は夫を“無力な生きもの”として扱い、弄んでいた。ある夜、夫を見ているうちに、時子は秘めた暗い感情を爆発させ…。表題作「芋虫」ほか、怪奇趣味と芸術性を極限まで追求したベストセレクション第2弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 「芋虫」「指」「火星の運河」「白昼夢」「踊る一寸法師」「夢遊病者の死」「双生児」「赤い部屋」「人でなしの恋」を収録。乱歩の短編の中から特に怪奇性・猟奇趣味の強いものが集められている。一編一編がかなり短めで読みやすいので入門編としてもベストだろう。個々の作品の怪奇性については、『犯罪乱歩幻想』を書いた三津田信三が解説で事細かに触れており、読みごたえがある。

 前巻と異なり、ほぼすべての作品が既読だったので懐かしく読み返した。四肢が切断され視覚と聴覚、言葉も失った男の末路「芋虫」、サーカス仲間からも笑われ虐げられる小人の道化の凄惨たる復讐劇「踊る一寸法師」の残酷さはもはや猟奇趣味という言葉では片づけられないほどで、初めて読んだ時の衝撃は忘れられない。現実離れしたファンタジーなイメージが延々と描かれる「火星の運河」は初読時なんだコリャと思ったものだが、確かにこれは純粋な幻想恐怖譚として終わっていたほうがよかったのかもしれない。絶対法律に触れない殺人法で99人を殺した男の話「赤い部屋」は、男の犯罪来歴と同じくらいに“赤い部屋”というクラブそのものが印象的である。ラストに喪失感を覚えてしまうのが不思議なほど、描写そのものは少ないのに。

★★★★(4.0)

 

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