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探偵小説&冒険小説に乱歩流の耽美で猟奇な味付けがハマる傑作-『孤島の鬼 江戸川乱歩ベストセレクション⑦』

『孤島の鬼 江戸川乱歩ベストセレクション⑦』

江戸川乱歩/2009年/336ページ

初代は3歳で親に捨てられた。お守り代わりの古い系図帳だけが初代の身元の手がかりだ。そんな初代にひかれ蓑浦は婚約を決意するが、蓑浦の先輩で同性愛者の諸戸が初代に突然求婚した。諸戸はかつて蓑浦に恋していた男。蓑浦は、諸戸が嫉妬心からわざと初代に求婚したのではないかと疑う。そんなある日自宅で初代が殺された。これは恐ろしく壮大な物語の幕開けに過ぎなかった―。

(「BOOK」データベースより)

 

 恋人の初代を殺害された青年・蓑浦は、友人の素人探偵・深山木に調査を依頼する。初代は密室で殺害されており、犯人がどこから侵入してどこから逃げたのかすらもわからなかった。調査を終えた深山木は簑浦と再会するが、事件の全貌を語らぬうちに深山木本人が真昼間の衆人環視のもと、刺殺されてしまう。この恐るべき殺人の手口は、そして目的は? 簑浦は同性愛者の友人・諸戸が自分に恋焦がれた末の凶行ではないかと疑うが、諸戸の不審な行動はすべて一つの目的のためであった。諸戸が語るところによれば、初代と深山木の殺害はとある財宝の隠し場所と関係しており、その場所は不具者である諸戸の父・丈五郎が住む孤島に間違いなく、その丈五郎こそが殺人犯であるという。簑浦は初代の仇を取るため、諸戸は父親の凶行を止めるため、諸戸屋敷が建つ南海の孤島・岩屋島へと向かうのだった。

 前半は奇怪な連続殺人事件のあらましとそのトリックを暴く探偵小説であり、後半は悪鬼の住む孤島を舞台にした冒険小説である。完成度の高い二段構えの構成に、どことなく危うい諸戸と簑浦の関係、孤島にて出会う世にも珍しい男女のシャム双生児・秀と吉、終盤に至るまでその悪辣さが更新され続ける黒幕の正体とその狂った願望といった乱歩流の味付けが見事にハマっている。特盛のサービス精神に加え、乱歩らしからぬほどの緻密な構成が楽しめる傑作である。

★★★★★(5.0)

 

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