『華舞鬼町おばけ写真館 祖父のカメラとほかほかおにぎり』
蒼月海里/2017年/240ページ
人見知りの激しい久遠寺那由多は大学をサボったある日、祖父の形見のインスタントカメラを、なんとカワウソに盗まれてしまう。仰天しつつビルの隙間へと追いかけるが、辿り着いた先はアヤカシたちが跋扈する別世界、『華舞鬼町』だった。狭間堂と名乗る若い男に助られた那由多は、祖父のカメラで撮った写真に不思議な風景が写っていたためにカワウソがカメラを盗んだことを知って…。妖しくレトロなほっこり謎とき物語。
(「BOOK」データベースより)
アヤカシの住む町「華舞鬼町」に迷い込んでしまった大学生・久遠寺那由多は、華舞鬼町で雑貨屋を営む人間の青年「狭間堂」と出会う。祖父の形見のポラロイドカメラで、強い想いが残る過去の風景を撮影できることを知った那由多は、雑貨屋狭間堂の片隅で写真を展示することになったのだった。
第一話「那由多と華舞鬼町」は、しゃべるカワウソのポン太にカメラを盗まれた那由多が華舞鬼町に足を踏み入れる導入回。第二話「那由多と十二階」では華舞鬼町のランドマーク十二階、すなわち浅草の凌雲閣にまつわるお話。この回に登場するアヤカシは過去のシリーズではあまり見られなかった出自を持つ。うさんくさい新聞記者の円も登場。第三話「那由多と祖父のカメラ」では蛍の想い出を探す老婆の願いを叶えるため、東京都内の蛍スポットを周る。
作者の前作「幽落町おばけ駄菓子屋」シリーズの続編だが、本シリーズからでも問題なく楽しめる。世界観と一部登場人物は共通しており、狭間堂の正体は巻末の「余話」で明らかになるし、那由多とその姉も実は前作に登場している。
ノリは終始軽くホラー要素は皆無だが、これはこれで確立された芸風である。いろいろ手探り状態で始まった感のある前シリーズに比べると設定のムリヤリさが無くすらりと読める。
★★★(3.0)