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意外な巨匠たちの怪奇作品。菊地秀行の趣味全開、懐かし系コミックアンソロジー-『闇の画廊』

『闇の画廊 ホラーコミック傑作選第2集』

菊地秀行(選)/1996年/325ページ

闇に蠢く狂気と絶望、そして悲惨…。八人の巨匠が描くダーク・ギャラリー!! 時空を超えて、いま甦る傑作恐怖コミック集。
〈収録作品〉
関谷ひさし「恐怖の幻視人間ムーズ」
武内つなよし「少年Gメン」
小島剛夕「浅き夢見じ」
さいとう・たかを「人犬」
川崎のぼる「死人が呼んでる」
望月三起也「吸血鬼」
桑田次郎「トゲ人間」
池上遼一「安達ヶ原の鬼女」
(解説/菊地秀行)

(裏表紙解説文より)

 当時の単行本未収録作を中心に、怪奇ものメインではない作家の怪奇漫画を取りそろえたアンソロジー。かなり選者の菊地秀行(角川ホラー文庫への参加は意外に少ない)の趣味が前面に出ており、懐かし系の少年漫画がメインになっている。

 関谷ひさし「恐怖の原子人間ムーズ」は、熱線で人を焼き殺す原子人間が通り魔的犯行を繰り返す…という話。余談が過ぎる前半や唐突過ぎるオチは気になるが原子人間の怪物っぷりは古き良きモンスター映画っぽくて面白い。武内つなよし「少年Gメン〈あるく植物〉」は、可愛らしい絵柄があっさり怪物に食われて死んでしまう少年の悲惨さを際立てている。昔の漫画の悪い博士、つり上がったグラサン好き過ぎ。小島剛夕「浅き夢見じ」は、女の哀しみを悲恋図として描き残そうとする浮世絵師と、美しいが恋を知らず「能面」と揶揄される娘の物語。浮世絵師は娘をモデルにの思うように筆が進まず、娘も絵師の真摯な想いに応えようとするのだが…。芸術怪談として非常に出来が良く、本書くらいでしか読めないのはもったいない。さいとう・たかを「人犬」はたいへんシンプルな獣人テーマだが、さりげないセリフやキャラの表情の描写が抜群に巧く、さすがの巨匠だと感心する。川崎のぼる「死人が呼んでる」もこれまたよくあるタイプの因縁+化け○○怪談。川崎のぼるのホラー、しかも少女漫画誌掲載というのは本書の中でも特に意外。望月三起也「吸血鬼」はベトナム戦争を舞台に、軍医として暗躍する吸血鬼というモダンホラーまる出しな設定が楽しい1作。吸血鬼に招かれた屋敷での凄惨な晩餐、大爆発と共に血が降り注ぐラストシーンなど、ショッキングかつ派手なビジュアルもじつに良い。桑田次郎「トゲ人間」は、タイトル通りの「トゲ人間」という怪物の絵ヅラが強烈なSFホラー。池上遼一「安達ヶ原の鬼女」はその力強い画風の大迫力に加え、若くして身を散らす三人の雑兵たちの野太い生きざまがなんとも印象的。
 50年代の作品2作はさすがに古さを感じたが、選者のカラーがよく出ているアンソロジーはやはり面白い。ちなみに角川ホラー文庫の「ホラーコミック傑作選 第2集」はもう1冊あるのだが(水木しげる『畏悦録』)、第3集以降の「ホラーコミック傑作選」はすべてアンソロジー路線なため、こちらが正式な第2集とカウントしていいだろう。

★★★☆(3.5)

 

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