『皐月鬼』
田中青蛙/2010年/224ページ
“火の山”への旅から戻った妖鬼の皐月と魂追いの少年縁は、再び村で暮らし始めるが、縁は行く先も告げず、ふらりと遠出することが多くなった。あることがきっかけで、一緒に暮らすことになった河童の子ネネは、なぜか皐月に反発ばかり。周囲では妖絡みの事件も発生し、皐月の日常は気苦労が絶えない。そんな中、縁には、旅先で邂逅した川の主との“約束の時”が刻一刻と迫っていた……。県境を守る鬼の少女の物語、最終章。
(「BOOK」データベースより)
「妖鬼の話」-昔、祖父が話してくれた‟県境の妖鬼”、皐月の話。好奇心から紫陽花を食べて腹痛を起こしてしまった妖鬼のため、紫陽花の妖「雨降らし様」に薬の作り方を聞いた祖父。その薬とは…。
「県境にて」-魂追いの少年・縁、産まれたばかりの河童・ネネとともに共同生活を送り始めた皐月。だが縁は家に居つかず、ネネは皐月のことを小馬鹿にしてまったく懐こうとしない。そんな折、村では奇妙な存在に人々が脅かされていた。気配だけは残していくものの目には見えず、家畜の生気を吸っては殺してしまう…。得体の知れない男や河童と共に暮らしているうえ、村で起きている騒動の正体もつかめない皐月に村人たちはいらだち、ついには…。
「石の中の水妖」-ネネは魂魄から生まれた獣「小餅」のことがお気に入り。散歩の最中、小餅が見つけた青い石の中には小さな女の人が入っていた。旅から帰って来た猫先生が石の呪いを解くと、女の声が聞こえるようになり、会話ができるようになる。烏魯というその女の身の上は、皐月と意外なつながりがあった。
「里の果てにて」-縁が‟川の主”と果たした約束の日が近づいていた。日々を不安とともに過ごす縁は妖艶な狐妖・銀華のもとに入り浸っていたが、皐月たちはそのことを知らずにいた。そして、ついに訪れたその日。姿を消した縁を探し、憔悴する皐月に対して猫先生は意外な解決方法を持ち出す。
「道連れ」-旅で道連れになった行者に、妖に出会ったことがあるかと尋ねられた。行者はかつて自分が退治したウワバミの話を語る。私の頭に思い浮かんだのは、退治すべき獰猛な妖ではなく、河童を連れて旅をする、幼い少女のような妖鬼の姿だった…。
「紫陽花の中の邂逅」-それから、時は過ぎ…。
シリーズの最終作。人間に舐められても意に介せず、悠久の時を生きながらも幼さが抜けきらない健気さと図太さを持つ皐月のキャラクターがとにかく可愛らしい。マイペースが過ぎる。端々で描かれる妖たちの生活のリアリティも雰囲気たっぷりで、文章のひとつひとつが味わい深い和風ファンタジーである。…と同時にシビアな描写も多く、ほっこり系とは言い難い作風でもある。人も、妖も、もっとタチの悪い何かも、神だか仙人だかわからん存在も、すべてひっくるめて成り立っているこの世界そのものに愛着が湧いてしまうシリーズだ。
最終巻と言えどすべてがスッキリ解決して大団円…という展開ではなく、個人的には皐月とネネの旅をもう1、2エピソードほど読みたかった気がするが、この終わり方はこれで良いのだと思う。彼女らは捜索の旅を続けている限り、おそらく縁に会うことができないのだから。
ふたりは今も彷徨っている。
★★★★★(5.0)