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人と妖が語る怪談奇談。妖鬼の少女・皐月の日常が心に染み入る連作集-『生き屏風』

『生き屏風』

田辺青蛙/2008年/182ページ

村はずれで暮らす妖鬼の皐月に、奇妙な依頼が持ち込まれた。病で死んだ酒屋の奥方の霊が屏風に宿り、夏になると屏風が喋るのだという。屏風の奥方はわがままで、家中が手を焼いている。そこで皐月に屏風の話相手をしてほしいというのだ。嫌々ながら出かけた皐月だが、次第に屏風の奥方と打ち解けるようになっていき―。しみじみと心に染みる、不思議な魅力の幻妖小説。第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。

(「BOOK」データベースより)

 

 「生き屏風」-村はずれに住む妖鬼の少女・皐月。普段はあまり人間と交流しない彼女だが、県境守りとして時に村人の頼みごとを聞くこともある…。では、酒屋の死んだ奥方が取りついた屏風の話し相手になる皐月。出会った妖怪の話、怪異の話、鬼の家族の話などを語るうち、皐月と奥方は打ち解けていくのだが…。

 「猫雪」-親の財産を継ぎ、日がな一日のんびり寝て暮らしている独り者の次郎。彼は不思議なしゃべる猫との問答で「雪になって、空から舞い降りてみたい」と答える。すると彼の姿は小さな雪片となり、空を思うがままに彷徨った…。皐月の変身の師匠でもある“猫先生”に出会ったとある呑気者が、自らの過去をちょっとだけ思い返す話。

 「狐妖の宴」-惚れ薬を作って欲しい、と年頃の娘に頼まれた皐月は、色恋沙汰に強い狐妖のもとへ娘を連れていく。イモリの黒焼きが惚れ薬になると皐月と娘に教える狐妖だったが、そもそも狐妖もその美しさゆえ、惚れ薬など必要としたことがなかったのだった…。季節は春。明け方、七分咲きの桜の下で狐妖が出会った“色男”の正体とは。

 

 三篇とも大枠となる話と、その合間に作中で語られるごく短い話とで構成されている。どの話も、はっきりとした起伏やオチがある「物語らしい物語」ではない。例えれば「日常4コマ」みたいな雰囲気か。とは言え決してチープさは無く、個々の登場人物も世界観も非常に魅力的。皐月も可愛らしく、彼女が“角”を見せるシーン、唇に雪が触れるシーンなどは何度読み返しても良い。恐怖成分はほとんど含まれていないが、個々の話の“奇想”ぶりは見事なもの。ガチホラーを求める向きが読んでも損はしない。

★★★★(4.0)

 

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