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華やかな世界の裏で渦巻く、あまりにも、あまりにもグロテスクな情念。人の心とかないんか?-『祇園怪談』

『祇園怪談』

森山塔/2012年/295ページ

祇園南一の老舗お茶屋「夕月」に現れた、舞妓志望の少女・恵里花。女将の月春はその才能を見抜き、夕月に入ることを認めるが、霊に憑かれやすいという恵里花の周りでは不可解な事態が続出する。それは、痛ましき伝説をもつ梅姫の呪いなのか。そう、恵里花が梅の枝を折ったその時から、悪夢が始まったのだった。雅で華やかな世界に巻き起こる悲劇のゆくえは―。日本ホラー小説大賞出身作家が描く、驚愕と衝撃の連作短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 祇園のお茶屋・夕月には、女将の月春のもと、3人の芸舞妓たちが在籍していた。舞妓になるため、田舎から出てきた恵里花の才能を見抜いた月春は、彼女を夕月に迎え入れることを決める。だが悪霊に憑かれやすいという恵里花の周りでは奇妙な出来事が次々と起きる。予期せぬ事故や事件に遭い、次々と夕月を去っていく芸舞妓たち。かつて夕月で無惨な死を遂げたという“梅姫”が恵里花に取り憑いたのだろうか? そして夕月は、恵里花自身も秘密を抱えていることに気づく…。

 

 『お見世出し』と同じく、華やかでありつつも裏の闇もまた濃い、舞妓たちの世界を祇園を舞台に描く連作短編。専門用語が頻出するものの、適時解説されるので読みやすく、舞妓文化の勉強にもなる。美貌の持ち主で5年連続売上No.1の売れっ子・月華、芸妓への道にやや消極的ながらも責任感の強い月まり、月春の実の娘で幼いころから厳しい修業を積んで来た月寿々、霊感を持つ先輩芸妓・月菊と、登場キャラクターも個性的(似たような名前で多少混乱するが)。全編に渡ってふた昔前の昼ドラなみにドロドロした人間模様が展開されるのが見どころだが、むろんホラー要素のほうも手抜かりが無い。梅姫の辿った凄惨な末路や、『お見世出し』収録の「呪扇」を彷彿とさせる激ヤバ呪物「赤子三味線」のエピソードなどは、煌びやかな世界とは対照的なグロテスク描写が実によく映える。というか「赤子三味線」の凄惨さは角川ホラー文庫全体を見渡してもなかなか無いレベルであり、相当に脳のタガが外れていないとこんなことは思いつかないと思う。改めて、森山氏の作品をもっともっと読みたかったなあと。

 最終章では「ホラーかと思ったらミステリだった」的な雰囲気になるが、そこからさらにもう一捻り、二捻りされる結末には思わず唸る。傑作である。

★★★★★(5.0)

 

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