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転校性が遭遇する、5つの学校の5つの怪異。眩しくも残酷な青春学園ホラーの傑作-『転校生』

『転校生』

森真沙子/1993年/215ページ

音楽室に鳴り響くピアノの旋律が、惨劇の真相を教えてくれた。図書室の貸し出しカードは死への招待状。理化室で出会ったあの人は伝言ダイヤルに仕掛けられた闇の迷路に消えていった。美貌の転校生をめぐって、5つの教室でくり返される5つの恐怖。封印された怨念の扉を開けてしまうのは、次はあなたかもしれない。書下し学園ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 幾度となく転校を繰り返してきた主人公・有本咲子。様々な学校での想い出の中には、奇妙で美しく、そして恐ろしい体験も少なくなかった――。プロローグ・エピローグのほか5つの短編から構成されており、それぞれ舞台となる学校が異なる。それと同時に咲子の趣味だの部活動だのもコロコロ変わったりするのでまるで別人のようであり、各編のつながりはそれほど強くない。

 「理化室-少年は虹を渡る」-両国の高校に通う咲子は、化学を偏愛する教師の頼みで、化学部(科学部ではない)の幽霊部員になった。学校になじめない彼女は、似たような境遇の学生たちが集まる伝言ダイヤルに慰めを見出す。「カンパネルラ」を名乗る化学好きの男子と親交を深める咲子だが、不穏なメッセージが吹き込まれたある日を境に彼は姿を消す。伝言ダイヤルから離れた咲子は部活へ顔を出すが、化学部の男子の1人がカンパネルラと喋り方がそっくりなことに気づく…。今ではすっかり廃れた伝言ダイヤルを舞台にした出会いと別れのSF(すこし・ふしぎ)短編であり、残酷さを中和するファンタジックな幕切れがなんとも印象的。

 「美術室-樹下遊楽図屏風」-鎌倉の女子高で美術部に籍を置く咲子は、転校生の室生環と親しくなり、環も美術部に入ることになった。学校の創立八十周年の記念祭の展示物として、火事で焼けた学校伝来の屏風を復元することになった美術部。だが咲子は、環が屏風に対して異様な執着を見せていることに気づく。聞くところによれば屏風はかつて学校に在籍していた女生徒の家族が寄贈したもので、その女生徒は自殺したのだという…。過酷な運命に弄ばれた友人との離別を描く、遣る瀬無くもどこか清らかな物語。

 「音楽室-みんな集まってくるよ」-瀬戸内海の漁師町の高校に転校してきた咲子。学校の音楽祭に出ることになった彼女は音楽室で讃美歌の練習をするが、その曲を聴いた体育教師の竹中は「この学校で二度とその曲を弾くな!」と激怒する。かつて竹中が監督していた野球部の生徒8人がボート事故で全員死亡した際、音楽教師が讃美歌に亡くなった生徒を悼む歌詞を付けて歌ったのだという。音楽祭の当日、復元した歌詞と共に讃美歌を演奏する咲子だが…。学園ホラーとミステリがきれいに融合した一品。

 「図書室-堕ちる鳩」-松江の高校に転校した咲子は、自分が図書室で借りる本の貸し出しカードに、必ず同じ生徒の名前があることに気づく。その生徒・黒崎薫は学校の3階から飛び降りて死んだのだという。黒崎が最期に借りた本「堕ちる鳩」は、ラフカディオ・ハーンが収集した怪談の中で、唯一怪談集に収録されなかった曰く付きの話なのだという。「堕ちる鳩」を読み進めるうち、咲子は本に隠された重大な秘密に気づく…。劇中作の「堕ちる鳩」が結末も含めてなかなか印象深く、怪異盛りだくさんの好編。

 「寄宿舎-女友だち」-奈良の女子学院で寮生活を始めることになった咲子は、妖艶な魅力を持つ先輩・夕子に惹かれつつあったが、他の生徒からの夕子の評判はあまり良くなかった。かつて沼に身を投げた生徒の自殺の原因は夕子だったのではないか、神通力があるのではないか、云々。そんな忠告を受けつつも夕子に耽溺する咲子だが、ある日夕子が「2人きりになりたい」と、咲子を沼のほとりへと導く…。濃厚な百合の香りを匂わせつつ、唐突なラストを迎える妖怪モノ。

 どの作品の登場人物からも様々な「青春」の在り方が漂っており、これぞ学園ホラーという気分にさせてくれる。エピローグも独立した掌編となっており、咲子のこれまでとこれからを暗示した結末だ。

★★★☆(3.5)

 

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