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学院で連続する奇跡と殺人。世界設定の深さと広さにいきなり圧倒されるシリーズ第1作-『バチカン奇跡調査官 黒の学院』

『バチカン奇跡調査官 黒の学院』

藤木稟/2010年/512ページ

天才科学者の平賀と、古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルト。2人は良き相棒にして、バチカン所属の『奇跡調査官』──世界中の奇跡の真偽を調査し判別する、秘密調査官だ。修道院と、併設する良家の子息ばかりを集めた寄宿学校でおきた『奇跡』の調査のため、現地に飛んだ2人。聖痕を浮かべる生徒や涙を流すマリア像など不思議な現象が2人を襲うが、さらに奇怪な連続殺人が発生し──。天才神父コンビの事件簿、開幕!

(「BOOK」データベースより)

 

 セントロザリオ学院で起きた「処女受胎」をはじめとする様々な奇跡。聖痕現象(スティグマータ)、涙を流すマリア像、壁に現れた聖痕画…。バチカンより派遣された奇跡調査官の平賀とロベルトは、いくつかの奇跡についてはその真相を明らかにすることに成功したが、処女受胎に関しては結論を決めあぐねていた。キリストの再受肉など、バチカンの上層部は到底認めるわけがない…。その一方で、セントロザリオ学院では連続殺人事件が発生。頭を砕かれ、目を、歯を、舌をくり抜かれ、胴体を引き裂かれ…。殉教の聖人たちになぞらえたかのような凄惨な殺人現場の数々。天使と悪魔が集うかのようなこの学院で、いったい何が起きているのか…。

 

 まず、設定がすばらしい。警察でもないのにいろんな事件現場へ赴く理由として「奇跡調査」とはなんとスマートであることか。あらゆる宗教、神話に悪魔にと、無限にネタが作れそうである。奇人スレスレだが博識でメモ魔な科学者・平賀、古文書や古代文字に詳しいロベルトの主人公2人組も、ややエキセントリックな平賀が探偵役で、常識人寄りのロベルトが彼をサポートするという立ち位置がわかりやすくて良い。彼らは敬虔なキリスト教徒でありつつも、奇跡に関しては「真実」を追求する立場にある。トリックを暴く際も、己の信仰心との間にジレンマを抱えている様子が見て取れて、これも謎解きジャンキーみたいな探偵とは異なる新鮮さがある。彼らを派遣するバチカンもまた一枚岩ではなく、陰謀策謀渦巻く組織なのがリアル。

 

 寄宿舎の生徒たちの間で行われる、黒ミサやウィージャー盤といった儀式。アルコール中毒の守衛が見た神父の秘密。浮かび上がるルーンの血文字。とにかくネタがてんこ盛りで、1つの謎が解けてもまだまだ謎はてんこ盛り、もちろん真相も深い闇の中に隠されており、たいへんボリューミーな1冊でもある。一連の黒幕はある意味ではおなじみのアレ関係なのだが、第1作目でここまで風呂敷を広げてくれるのは頼もしい限り。角川ホラー文庫最長シリーズ、堂々たる幕開けである。これはいいぞ!

★★★★☆(4.5)

 

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