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無職青年と妖怪の生態を観察! 傑作ネイチャー・ドキュメンタリー-『妖怪新紀行』

『妖怪新紀行』

瀬川ことび/2004年/239ページ

就職予定だった会社が倒産、冴えない日々をおくる大学四年生、鵜沢裕司。バイト先のコンビニで「アメリカスナカケババア」に遭遇したのを皮切りに次々と新種珍種の妖怪にめぐりあう。妖怪マニアの鳥飼、謎の妖怪博士ドッテンボロー氏、そして、いとしい「コテンニョ」が鵜沢をめくるめく妖怪天国に導いて…。瀬川ことびの新境地、可笑しくてちょっと切ない妖怪ストーリー。

(「BOOK」データベースより)

 

 大学卒業後も就職の当てのない冴えない青年が、これまた冴えない先輩とともに「妖怪ウォッチング」にハマる話。この世界では妖怪は見ようと思えば見られる程度のものであり、妖怪愛好家のためのガイドブックや、妖怪の普段の生活を追うドキュメンタリー番組が放映されていたりする。また、妖怪にも亜種や外来種があり、本作にはアメリカスナカケババア、ミシシッピーアカミミガッパ、セグロアズキアライといった変わり種が登場したりする。

 つまり、妖怪をその辺の動物や鳥、昆虫たちと変わらない存在として扱っている世界なのである。劇中に登場する妖怪博士・ドッテンボロー氏はネイチャードキュメンタリーの大家、デイヴィッド・アッテンボローのパロディだろう。一発ネタのような話だが、人の暮らしに密着した怪異である「妖怪」という存在の本質に迫っているとも言える。

 瀬川ことびらしく、全体の雰囲気はコメディ調であり、主人公の「冴えない生活ぶり」のリアリティが凄い。内定をもらっていた会社が倒産、彼女にも振られ、卒業後も在学中と同じ安アパート暮らし。先輩と酒を飲みあかし、たまに実家に帰ってのんびり過ごす一方で焦りも消えることなく…。そんなモラトリアムな日常に潤いをもたらしてくれるのが妖怪たちなのである。無害で愉快な連中が多い一方で、人間に害を為す恐ろしい妖怪との遭遇ももちろんあるのだが、これも自然の生き物たちとなんら変わりないことに気づかされる。

★★★★☆(4.5)

 

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