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悪ふざけギリギリのアイデアに満ちた、笑いに特化したホラー短編集-『夏合宿』

『夏合宿』

瀬川ことび/2001年/206ページ

中学二年生の俊輔は、たったひとりで剣道部の合宿へむかうところだった。夏期講習に参加したため、みんなと一緒に出発できなかったのである。合宿先は毎年恒例の、貸し別荘が点在する避暑地だったが、剣道部が借りたのは恐ろしく古く薄汚れた施設だった。終点のバス停まで迎えに来てくれた先輩と暗い山道を歩くうち、俊輔は林のなかに青白く光る不思議な火の玉を目撃してしまう……。ホラー大賞長編賞作家の、傑作短編集!

(「BOOK」データベースより)

 

 「夏合宿」-剣道部の合宿で、とある山奥の宿泊施設に泊まることになった俊輔。到着が1人遅れたため、迎えに来た先輩と共に暗い山道を歩いて施設に向かうが、その途中で無数の人魂に出会う。驚いて逃げ出す2人の前に現れた地元の老婆は「あれはヒカリモンじゃ」と告げる…。ノスタルジックな妖怪話かと思いきや、ラストに二段構えのトンチキな落ちが待ち構えており呆気にとられる。「本と旅する彼女」-幼い頃に本で読んだ“海の魔人像”を求め、一人旅でギリシャにやってきた美夏。仲良くなった地元の若者の船に乗って魔人像へ向かうのだが、彼女がとあるタブーを冒したことで小さな島は大騒ぎになり…。よくある田舎ホラーかと思いきや、これまた想定外の結末を迎える。似たような雰囲気の短編はいろいろ読んできたが、このオチはありそうでなかったパターンで感心した。拾い物である。「廃屋」-廃墟になった旅館で幽霊を見たという友人と、その彼女とともに廃墟探検に出かけた主人公。ベタなシチュエーションの中、彼が遭遇したのは幽霊をもはるかに超える、想像を絶する怪奇現象だった…。わけのわからなさは昨今の実話怪談チックでもあるが、ここまでロコツな怪奇現象はなかなか無いと思われる。「たまみ」-楳図かずおの『赤ん坊少女』を下敷きに、なんとなくハッピーエンドに落とし込んだほのぼの譚。「ドライ・オア・フレッシュ」-両親が南米旅行土産で買ってきた「人の干し首」は、当然ながら若い姉妹には大不評。あまりに気持ち悪いのでガレージの隅に吊るしてほったらかしておいたのだが、ある晩、窓をコンコンと叩く音が響き…。干し首とはまた別の怪異について触れられているのだが、あまり新鮮なネタではない。とは言え「青春+干し首+ホラー」の組み合わせ自体が唯一無二過ぎて妙な味わいがある。
 作者お得意の「ホラーコメディではないコメディホラー」を存分に楽しめる。過去作『お葬式』『厄落とし』には軽薄さの奥にとてつもない不穏さがにじむ作品が1、2編はあったのだが、本書は全編ライトな感じで、少々物足りなくはある。

★★★(3.0)

 

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