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「最悪」を突き進む狂おしき青春! 差し伸べられるのは血に塗れた救いの手-『爛れた闇』

『爛れた闇』

飴村行/2013年/320ページ

高校2年生の正矢は絶望しきっていた。先輩で不良の崎山が23歳も年の離れた自分の母親と付き合い始めたのだ。ついに正矢は学校も退学してしまう。一方、独房に監禁された男が目を覚ました。どうやら大東亜戦争中の東南アジアで「大罪」を犯したらしい。そこへ謎の男が現れ拷問が始まる…。やがて正矢と男は互いの夢に現れるようになるが2人の過去には恐るべき謎が隠されていた!飴村節全開の驚愕エンタテインメント。

(「BOOK」データベースより)

 

 独房に監禁され、憲兵に執拗な拷問を受ける記憶を失った男の話「闇に囚われし者」。母親が自分の1歳年上のチンピラの先輩と恋人関係となり、家に居場所を失くしてしまった高校2年生・正矢の話「闇に怯えし者」。この2つの話が並行で語られ、かつ夢の中でお互いの存在を認識し始めるようになる。この2人の間にはどのような関係が…? というミステリ要素が話の中心だが、リーダビリティが圧倒的で、ぐいぐい話に引き込まれる。記憶のフラッシュバックから自分の正体と罪を探ろうともがく「囚われし者」の話も面白いが、人生の最悪の状況を更新し続ける正矢の話からも目が離せない。母親とチンピラ先輩・崎山との痴態を見せつけられ、なんやかんやで高校は中退。親友の晃一・絵美子とも疎遠になり、就職先を探しているタイミングで母親の妊娠が発覚。浮かれた母親は崎山に報告するが、それを聞いた崎山は態度を急変させ…。ここから先は「まだ下があるのか」と嘆息するほどの無下限呪術、状況は際限なく悪化していく。そして正矢の前に現れたのは、熾烈な拷問を受けていた「囚われし男」であった…。

 爛れた闇の帝国は、誰の心の中にも潜んでいる。それに一切の例外が無いことを露わすラストの鮮烈さ…。終盤に暴かれる残酷過ぎる真相の数々はもう勘弁してくれと言いたくなるほどの圧倒的質量で、ここまで来ると逆に笑えてくるほどだ。ぜひともこの最悪の奔流に身を委ねてほしい。

 著者の「粘膜」シリーズっぽい謎の生物も出てくるが、世界観は異なる。エグい描写は抑え気味でファンには物足りないかもしれないが、飴村行入門編としておすすめしたい一作。

★★★★☆(4.5)

 

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