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人気作家集合のお祭り感と、最悪の読後感を両立するアンソロジー-『二十の悪夢』

『二十の悪夢 角川ホラー文庫創刊20周年記念アンソロジー』

小林泰三、恒川光太郎、藤木稟、朱川湊人、岩井志麻子、平山夢明/2013年/253ページ

あらゆる恐怖を生み出し続けてきた角川ホラー文庫の創刊20周年を祝し、ホラーの名手たちが集結。“20”が導く新たな恐怖の幕が開く!20年前のある20秒の記憶に苦しむ男、自分が逃れてきた「恐怖」を語り続ける女、20歳未満だけが乗船できる空飛ぶ船、潜水艇に閉じ込められた子どもたちとその親の20分。予言めいた母の手紙に隠された真実、死んだ姉が“よくないもの”になっていると知った男の行動とは。豪華オール書き下ろし!

(「BOOK」データベースより)

 

 小林泰三「逡巡の二十秒と悔恨の二十年」-20年前、たった20秒間の過ちのせいで友達を失ってしまった記憶に悩まされる男。20年前のことを思い返すたび、彼の記憶は混濁し…。複雑怪奇な内容がすっかり腑に落ちると同時に、後味の悪いラストが見事。

 恒川光太郎「銀の船」-20歳以下の人間しか乗ることができないという銀の船、時空船ブリガドーン。街ひとつをその背に乗せるほど巨大なこの船はあらゆる場所と時間を行き来する。乗客は決して年を取ることなく、永遠に過ごすことができるのだ…。無限の命に飽く人々の生活をしみじみと描く佳作。

 藤木稟「母からの手紙」-故郷を捨てアメリカでチンピラ同然の暮らしをしている男・ロミオのもとへ届く、予言めいた手紙の真実とは。20進法がキーワードになる、「バチカン奇跡調査官」シリーズのスピンオフ。

 朱川湊人「生まれて生きて、死んで呪って」-人形じみた美青年・ジョン姫羅木から、10数年前に自殺した姉が‟よくないもの”となり果てていることを知った弟。いまだ現世をさまよい続ける姉を‟次に進める”ため、ジョンとともに姉と対峙する…。こちらは「白い部屋で月の歌を」のスピンオフで、家族を失ったものの哀切が描かれているからこそ、この幕切れには何も言えなくなってしまう。本作のみ‟20”がどこに関わってくるのか不明瞭。

 岩井志麻子「熱い国で彼女が語りたかった悪い夢」-ホーチミンに彼氏がいる女が脈絡なく語る、いくつもの怪談・奇談。恐怖に取り憑かれ、恐怖から逃げ続ける女が最後に味わう恐怖とは…。「現代百物語」シリーズを彷彿とさせるミニ怪談が作中にいくつも盛り込まれており、ラストで作者お得意の‟嘘”にまつわる秘密が明かされる構成になっている。

 平山夢明「ドリンカーの20分」-貧しい夫婦とその娘が、金持ちだらけの海水浴バスツアーに見世物じみた理由で同行することに。知り合った子供らと小さな潜水艇に乗る娘だが、事故のため潜水艇は遭難。残された酸素はあと20分…。作者の残酷寓話めいた短編の中でもひときわ後味が悪く、本書の読後感を最悪のものにしている傑作。今のところ本書にしか収録されていないレア作品。

 

 角川ホラー文庫刊行作に関連する作品も多く、さすが20周年記念の名を冠するにふさわしい内容である。作者のカラーが良く出た作品ばかりなのもうれしい。好みの作品を挙げるなら、やはり「ドリンカーの20分」が強烈。

★★★★(4.0)

 

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