角川ホラー文庫全部読む

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豪華メンバーながら寄せ集め感が強いアンソロジー。栗本薫は掘り出し物-『悪夢』

『悪夢』

夢枕獏、栗本薫、赤川次郎、竹河聖/1995年/212ページ

夢か現実か。現実の世界に非日常が入りこむ時、そこには無限の闇が…。四人の作家による、四つの恐怖。豪華メンバーで贈る、ファンには絶対見逃せないホラー・アンソロジー。

(「BOOK」データベースより)

 

 角川ノベルスで刊行されたオリジナルアンソロジーの文庫化。そうそうたるメンバーが揃っているが、コンセプトがどうにもはっきりしない。「悪夢」というテーマはホラーにしては普遍的過ぎる。
 夢枕獏「下衆法師」は陰陽師シリーズの一編で、まあオーソドックスな一編。赤川次郎「見果てぬ夢」はテレビドラマ「幻想ミッドナイト」で映像化もされた話。過去に心中したが生き残ってしまった男が、心中相手の夢を見るようになる。その夢は周囲の女性にも伝染していき…という、もっとも「悪夢」らしい話。竹河聖「幻想マシーン」は、瞑想マシンで幽体離脱できるようになった男が他人の意識に入り込んで迷惑をかけるという暗黒ひみつ道具話。
 栗本薫「バックシート」は、本書の中ではもっとも怖い。大雨の降る真夜中、なんとかタクシーに乗車できた男。だが運転手は異様に神経質で、話がまったく嚙み合わない。「○○に行ってくれ」「どのような道を通りましょう」「いちばん早く着くのでいいよ」「早いって言われても、どの道が混んでいるとかの条件はいつも同じじゃないですからね」「じゃあ、いちばん普通の道でいいよ」「普通ってどういう意味ですか」。これは怖い。タクシー怪談というのはよく聞くが、運転手が完全に壊れている、というパターンは意外に見たことがない。ああだこうだ言い合っているうちにタクシーはどんどん目的地から離れていてしまうが、そのことを指摘すると運転手はすすり泣きはじめ、ついには…。短編実写ドラマで見てみたい、シチュエーションホラーの快作だった。

★★★(3.0)

 

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