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ボーダーを越えて来たる死者が生者を惑わす。ラスト以外は秀逸なホラーミステリ-『フランティック』

『フランティック』

鎌田敏夫/2001年/286ページ

「私は母に殺されたの」ミステリー作家の丹野は妻・怜子から奇妙な事を言われる。死ぬ間際に育ての親が怜子に言い残したという謎の言葉の意味を探るうちに33年前のバス事故にたどりつく。触れてはいけない過去。そして最後に彼が見つけた衝撃の真実とは―!?死者を見る能力をもつ不思議な男が結ぶ4つの物語。生者と死者の憎しみとエロスを描いた血迷う人々の連作短篇集。

(「BOOK」データベースより)

 

 「死者」と「女」をテーマにした、4つのそれぞれ独立した物語からなる連作短篇集。4つの物語をつなぐのは死者の姿を見ることができる男・高沢で、最後の一編は彼が主人公となる。

 1話目「♠」は「自分は過去に殺された」と語る妻の言葉をもとに、独自に調査を始めたミステリ作家・丹野が主人公。彼が話を聞くために訪れた相手が次々と殺されてしまい、いつの間にか自分が追い詰められていることに気づくのだが…。

 2話目「♥」。地味な毎日を送るスーパー勤務の女・英美は、「英美とそっくりな顔をした女を見かけた」と続けさまに同僚たちに聞かされる。派手に遊び歩くその女・雪絵のことが気になり始めた英美は、雪絵のことを追ううちに完全なストーカーと化してしまう。

 3話目「♦」。平然と浮気を繰り返す隣人の妻や、不愛想でコミュニケーションが取れない息子にいらだつ毎日を送る主婦・昭代。街を騒がす猟奇殺人犯の正体を知った昭代は、夫と共謀して恐ろしい計画に手を染める。

 4話目「♣」。昔付き合っていた女性・冬実と再会した高沢。現在の冬実の恋人・川本は、その妻も含めて異様極まる雰囲気と魔性の魅力を持つ男だった。冬実とともに川本の家を訪れた高沢は、夫婦が揃って「ボーダーを越えてきた者」だと気づく。冬実に代わって川本に別れ話を告げる高沢だが、その帰り際、川本の妻は「あなた、この娘を殺すわ」と高沢に耳打ちする。

 ミステリ風味ながらホラー成分も強めな短編ぞろい(個人的にはスーパーナチュラル要素が薄い2話、3話のほうが怖かった)。先の展開が読めない話が続きわりと楽しめたのだが、最終話のラストは少々いただけない。これまでに死んだ人たちが集合してパワーを与えるという少年マンガみたいなオチであり、これならもっと後味の悪い展開のほうがマシだった気もする。

★★★(3.0)

 

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