『死体でも愛してる』
大石圭/2020年/288ページ
台所に立っていると落ち着く。料理をすると心が凪いでいく。だからわたしは、最愛の夫が死んだ今日も包丁を握る。「彼の肉」で美味しい料理を作るために。日増しに美しくなる娘に劣情を抱く父親、コンビニ店員に横恋慕した孤独な作業員ー「異常」なはずの犯罪者たちの独白を聞くうち、敏腕刑事・長谷川英太郎には奇妙な感情が湧き…。供述が生んだ悲劇とは!?あなたの心奥にひそむ欲望を刺激する、予測不可能な犯罪連作短編集。
(「BOOK」データベースより)
刑事・長谷川英太郎は取調官として、さまざまな供述に耳を傾けてきた。恵まれた体格と容姿を持ち、子供の頃から正義感が強かった彼は、刑事こそ自分の天職と考えている。容疑者に対しても敬語で話し、真摯な態度で向き合う英太郎だったが、猟奇的な犯罪者たちが語る赤裸々な独白は、少しずつ彼の内面に影響を与えていた。妻を亡くした画家が、忘れ形見である娘に下卑た欲望を向け、「愛するがあまり」に絞殺する(「夏の章 ヴィーナスたちの種蒔き」)。冴えない作業員の青年が、自分に優しくしてくれたコンビニ店員の女性への片思いを募らせる。彼女の住居を突き止め、隣の部屋に引っ越して生活を盗み聞きしていた青年だが、彼女が恋人と同居していることを知ってしまい…(「秋の章 目のない魚」)。最愛の夫が自殺し、激しく慟哭する妻。料理研究家だった彼女は、解体した夫の身体を腕を振るって調理する…(「冬の章 愛ゆえに食す」)。
英太郎が無精子症であることがわかってからというもの、英太郎と妻の千春との仲はぎくしゃくし始め、今では完全に冷え切っていた。千春が急に身だしなみに気を使うようになったり、見覚えのない色の髪の毛を浴室で見つけたり、いつもとは違う銘柄のビールが冷蔵庫に入っていたりと、さまざまな兆候から浮気を疑い始める英太郎。彼の頭の中には、妻と浮気相手を殺害した容疑者の「きっと刑事さんも俺と同じことをしますよ」と笑う声がこだましていた…(「春の章 春が来たって何になろ」)。
4編からなる連作短編集。夫の肉を調理する妻の話「冬の章」は嫌悪と好奇心でかなりゾクゾクさせられる逸品で、さすが『湘南人肉医』を書いた大石圭である。ただ、その他の3編はかなりオーソドックスかつ新鮮味のない題材で、読み終えても腹に溜まるものがないという感想。変態度とエロチック度と切なさ度、いずれも物足りなさは否めないが、程よく初心者向けな大石圭入門編としてはいいのかもしれない。
★★☆(2.5)

