角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

実話怪談のスタイルをいち早く成立させたホラーエッセイ。豪華漫画家ゲスト陣も!-『ゆうれい談』

『ゆうれい談』

山岸涼子/2023年/240ページ

全部、本当にあった怖くて摩訶不思議な話。

漫画家にとって最大の敵は睡魔。山岸プロでの眠気ざましの話題は“ゆうれい談”。萩尾望都、大島弓子など著名漫画家たちの不思議体験談を始め、アシスタントさんが経験した怪異譚、著者が旅先や自宅で遭遇したほんとうにあった怖い話や魔訶不思議な話を満載。怖いけれど怪異を蒐集せずにはいられない著者のゆうれい談。表題作ほか、「読者からのゆうれい談」「蓮の糸」「ゆうれいタクシー」「タイムスリップ」 の5作を収録。解説:小野不由美

(Amazon解説文より)

 

 実話怪談ものの嚆矢とも言える、山岸涼子のコミックが角川ホラー文庫に。みやわき心太郎・もりたじゅん・萩尾望都・ささやななえこ・大島弓子といったゲスト陣も豪華な表題作「ゆうれい談」では、オーソドックスな幽霊モノから予知夢の話に加え、不思議な体験談がぞくぞくと語られる。解説で小野不由美が指摘している通り、「恐怖体験談」ではなく怪異そのものを語る「怪談」であるという点で、時代を先取りしたスタイルの作品であった。「読者からのゆうれい談」では文字通り読者の体験を、「蓮の華」では山岸涼子とその兄の幽霊怪談が語られる。

 基本的にどの話も「おどろおどろしさ」をことさら強調しているわけではなく、作者の自画像などむしろユーモラスに描かれている箇所も多いのでたいへん読みやすい。「ゆうれいタクシー」はこれまたオーソドックスなタクシー怪談だが、人の好いツルツルの運転手さんのキャラクターがなんとも味わい深い。

 ラストを飾る「タイムスリップ」はひときわ実話怪談っぽいエピソードが集められており、個人的には拾い物だった。車で目的地に向かっているのに、予定時間を過ぎてもなかなかたどり着かない。なんだかさっき通ったはずの場所を何度も何度も通っているような気がする…という、錯覚で片付けられそうなそうでもなさそうな、絶妙な匙加減の怪談である。タイムスリップというSFチックな現象が、「タヌキやキツネに化かされた」という昔ながらの言い伝えとして残っている…というのも面白い。

★★★(3.0)

 

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