角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

斬られた首を取り戻しに来る「などらき」の正体は? シリーズの世界観を広げる好短編集-『などらきの首』

『などらきの首』

澤村伊智/2018年/304ページ

第72回推理作家協会賞短編部門受賞作収録! 比嘉姉妹シリーズ最新刊!

【第72回推理作家協会賞短編部門受賞「学校は死の匂い」収録!】

雨の日にだけ、体育館に幽霊が出る――。 小学六年生の美晴は、学校に伝わる心霊めいた噂通りに体育館のキャットウォークから飛び降りる白い少女を目撃する。白い少女の正体は何か、何故彼女は飛び降りるのか。姉・琴子に対抗するため、美晴は真相究明に挑むが!?(受賞作「学校は死の匂い」)

「などらきさんに首取られんぞ」祖父母の住む地域に伝わる“などらき”という化け物。刎ね落とされたその首は洞窟の底に封印され、胴体は首を求めて未だに彷徨っているという。しかし不可能な状況で、首は忽然と消えた。僕は高校の同級生の野崎とともに首消失の謎に挑むが……。 (表題作「などらきの首」)

(Amazon解説文より)

 

 『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』の登場人物らの過去のエピソードを描いた短編集。1つ1つの話自体は独立しており、前2作を読んでいなくてもじゅうぶん楽しめる。

 「ゴカイノカイ」-とあるビルの5階では、夜になると子供の泣き声がする。「痛い、痛い」というその声を聞いているうちに、本当に痛みを感じてくるというのだが、瑕疵物件でもないこのビルでなぜそんな怪奇現象が起こるのか? ビルのオーナーは鎮め屋に依頼するが失敗。藁をもつかむ思いでヒガマコトなる人物に連絡するが…? 真琴の普段の仕事ぶりを描く、ある意味オーソドックスな一編。

 「学校は死の匂い」-小学校の体育館には、雨の日だけ幽霊が出ると噂されていた。比嘉美晴はクラスメイトの古市、妹の真琴と共に雨の日の体育館に向かう。そこで視たのは「ごめんね」といろいろな人に謝りつつ、壁際のキャットウォークから身を投げる白い少女の霊だった。彼女はなぜ、死してなおそのような行動を続けているのか…? 比嘉姉妹の次女・美晴の生前の活躍を描く心霊ミステリ。学校が‟怖い”のは死の匂いが漂っているから…という劇中のセリフは実にシンプルかつ説得力があるもので、ノスタルジックな想い以上にやるせない感情が募る学校怪談の傑作。

 「居酒屋脳髄談義」-「男は脳で考えるけど、女は子宮で考える」なる俗説を、後輩の女性・晴海相手にベラベラ喋りながら飲んだくれる石坂、小崎と課長の三人組。いつものようにセクハラパワハラを交えた酒の席だったが、晴海に「皆さんは精巣で考えるわけですね」と反撃を喰らって激昂。何を言っても晴海に論理的に返されてしまい、完全にやりこめられてしまうのだが…。予想外の方向へと転がる悪夢の飲み会。

 「悲鳴」-演劇部の赤城千草と犬飼は、大学の映画同好会が撮影するホラー映画に出演することに。同好会の山岸、岡本、OB伊勢原の鼻持ちならないホラー談義にうんざりしつつ、千草たちは演技を続けるが、監督の山岸は「女の人の悲鳴が聞こえた」と言いだす。撮影現場の山には、殺された女性の霊が出るという噂があった。後日、サークル棟で同行会会長の江藤も交えて撮影を続行するも、今度は岡本も犬飼も「悲鳴が聞こえた」と主張しはじめる。不安を感じる千草だったが、彼女の耳にも「きゃああああああっ」という引き裂くような悲鳴が聞こえ…。『ずうのめ人形』のとある重要キャラの過去話である。相変わらずムカつく男連中の書き方が巧い。

 「ファインダーの向こうに」-オカルト雑誌編集の周防と野崎は、落ち目のカメラマン・明神と共に「霊が棲むハウススタジオ」の取材を行っていた。明神の高圧的な態度に辟易する2人だったが、「室内を撮っていたはずなのになぜか河の風景が写り込む」「突如、心霊写真集が現れる」という、少々地味ではあるがまぎれもない怪異に遭遇する…。他の収録作とはちょっと毛色が異なる爽やかな一編。

 「などらきの首」-寺西は同級生の野崎を連れて祖父母の家に来ていた。子供の頃、意地の悪い従兄弟に連れられて‟などらきの首”を祀った洞窟に行った時の話に野崎が喰いついてきたのだ。山奥に棲み、時々人里に降りてきては家の中に潜むという「などらき」。などらきに触られた者は全身に発疹が出来て死に、息を吹きかけられれば肺が腐って死ぬ。などらきは首を斬られて退治されたが、洞窟に封じられた首を取り戻そうと、胴体だけで現れることがあるのだという。未だに洞窟となどらきの悪夢に悩まされる寺西に、野崎はなどらきの正体を突き付けるのだが…。このシリーズおなじみの「平仮名四文字の怪異」が登場する書きおろし作。その不気味さと存在感は流石の一言。

 前述の通り、シリーズを知らなくても楽しめるし、知っていればより楽しい短編集である。個人的には表題作と「学校は死の匂い」の出来が図抜けていると思う。

★★★★(4.0)

 

◆Amazonで『などらきの首』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp