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作中ギミック全てが不発、唐突に迎える納得いかないラスト。すがすがしいまでの失敗作-『そして、またひとり…』

『そして、またひとり…』

幸森軍也/1999年/253ページ

百瀬貴彦、百瀬の妻・朋美、薬袋和久、八木沢延明の4人は大学時代同じサークルに属していた。卒業後10年ぶりの再会を機に家族連れでキャンプへ出かけることになるが、なれない地理での検問による迂回や、天候悪化のための事故など、アクシデントが相次ぎ、ついには水遊びをしていた八木沢の息子・貴史が川に流され命を落としてしまう。楽しいはずのキャンプが霧のなかで悲劇にかわっていく―。

(「BOOK」データベースより)

 

 短編2本を収録した、著者の小説デビュー作。表題作「そして、またひとり…」は、かつて大学のサークル仲間だった4人がそれぞれの家族を連れて合同キャンプに行くが、子供のひとりが溺死してしまう。さらに不幸は続き、ひとりまたひとりと犠牲者が。これはキャンプ地で掘り起こした謎の地蔵の祟りなのか? それとも近辺に潜伏しているという殺人鬼の仕業なのか? …というお話。川に落ちて溺死、交通事故で追突死、野犬に襲われる、刃物で首を切られ失血死、洞窟に落ちて滑落死…と死因はさまざまだが、ネタバレしてしまうと、次々と死者が出る理由は最後まで明らかにされない。何者かの手による殺人が起きているにも関わらず、犯人は最後まで読んでもわからない。「思わせぶりなことが起きるも、真相は闇の中」というのはホラーでは珍しく無いパターンだが、本作の場合は登場人物の行動にリアリティが無さ過ぎて作者を信用できず、単に収拾がつかなくなって投げだしてしまったかのような印象を受ける。子供が死んでいるのに「せっかく建てたテントを片付けるのが面倒くさい」とかいう理由で帰ろうとしないのがまずあり得ないし、憔悴して先に帰ろうとした母親が事故死してもまだ帰ろうとせず、みんなでカレーを食べたり、「子供たちに思い出を」と花火を始めたりする。人の心とかないんか? リアリティのある作品の場合、真相が明らかにならなくても「現実ってそういうモンだよネ」とある程度納得できるのだが、本作の場合は単に不出来なだけに思える。

 もう1つの作品「闇の中」は、とある女子大生の日常を描く三人称視点、彼女を付け回すストーカー「わたし」の一人称視点で描かれる。読んでいるうちに「わたし」が女性に好意を抱いているのか、憎んでいるのかわからなくなってくる。実は一人称が「わたし」の別の人物の語りが混じっていて、女を憎んでいるほうが当の女子大生だった…という一種の叙述トリックなのだが、これがあまりうまくいっていない。「わたし」はもうひとりいた!!!!!! というのは丁寧に読んでいれば普通に気づくことなので意外性は薄いし、ラストも女子大生とストーカーが対面しそうでしないという腰砕けな結末。作中に「そして、またひとり…」で最後まで生き残ったとあるキャラと一文字違いの人物がおり、これは作品間を越えた何かの伏線かと思いきや全然そんなことはなかった。親族、パラレル世界の当人の可能性はあるが、仮にそうだったとしても物語には何の影響もない。単に思わせぶりなだけである。

 文章自体は読みにくくもなく、かといって平易過ぎもせず悪くないのだが、ホラー云々以前に小説として完全に失敗している。正直まったくオススメできない内容。

★(1.0)

 

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