『真景拝み屋怪談 蟲毒の手弱女〈天〉』
郷内心瞳/2025年/480ページ
拝み屋・郷内が相談客の裕木から受け取った取材記録「念珠怪談」。200話に及ぶ怪異譚に姿を見せ続けた稀代の霊能師・霜石湖姫は、裕木を不穏極まる儀式に協力させようとしていた。裕木解放の条件は、郷内の許にいる“白無垢の魔性”を手中に収めること。郷内は魔窟と化した霜石邸へ向かう…。消えぬ花嫁の障り、鵺神と呼ばれる呪具の数々。異形を集める湖姫の真の目的とは。「めでたし」にはほど遠い、最後の怪談始末、第一部。
(「BOOK」データベースより)
拝み屋・郷内心瞳は絶不調だった。難病グルーヴ膵炎を患い、妻と別居することになったあげく、この世ならざる物を視たり感じたりする霊感も消えてしまった。このまま拝み屋を続けていくことができるのか。思い悩んでいた郷内だったが、知人の拝み屋・浮舟桔梗のつてで「幼いころ、UFOに知り合いの男の子がさらわれた」という記憶を持つ女性・有澄杏の相談を受ける。小学3年生のころ、家族のもとを離れて「浄土村」に連れてこられた杏は、倫平という男の子と仲良くなる。浄土村は今にして思い返せば奇妙極まりない場所で、村民はパラボラアンテナの付いた塔に祀られた「サリー」なるものを崇めていた。サリーは異様に大きな頭と黒目だけの目、細い手足と灰色の肌を持つ異形の存在で、その姿は今で言う「グレイ型宇宙人」そっくりだったという。そして村の祭りの日に起きた「何か」によって杏の記憶は混濁し、倫平は姿を消し、杏はいつの間にか実家へと帰ってきていた…。郷内は杏と桔梗、桔梗の助手の佐知子、占い師の小夜歌とともに浄土村なる場所を調査することにする。
その頃。「念珠怪談」で姿を露わにした霊能師・霜石湖姫は世に散らばる「鵺神」を集めて蟲毒の儀式を行おうとしていた…。
「拝み屋怪談」真の最終章、その前編にあたる。無数の短い怪談が意外な点で結びつき、恐るべき真実を明らかにする…というお馴染みの構成ではなく、『壊れた母様の家』のような伝奇長編である。この〈天〉の巻は、浄土村で起きたUFO事件の真相をめぐる物語がメインとなっており、該当部分だけを読み進める分にはシリーズ初見の読者でも楽しめると思う。問題は前巻『拝み屋念珠会談 奈落の女』で大暴れをかました霜石湖姫と彼女に仕える蛭巫女・玖条白星、湖姫に心酔する「念珠怪談」の著者・祐木真希乃のエピソードで、浄土村関連の話に交じって、誰の視点かもわからない湖姫パートが挟まれるためだいぶ混乱する。過去シリーズと関わり深い桐島加奈江の話も絡んでくるし、なによりトンデモ過ぎる湖姫のキャラ付けにも困惑させられる。相手の認識を操作する異能力を持ち、卓越した体術で成人男性も一捻り、さらに二振りの刀・その名も万斬蝮と姫波布を振るって悪霊どもを切り刻んでいく姿は、端的に言えば「やり過ぎ」である。続く『蟲毒の手弱女〈冥〉』ではこの怪物と対決することになるのだろうが、虚実揺蕩うこのシリーズのラスボスとしてはいろんな意味でふさわしいと思う。どうなる! 最終巻!
★★★☆(3.5)

