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彼岸此岸をたゆたう何者かの声。シリーズの中では比較的刺激強めの1冊-『現代百物語 彼岸』

『現代百物語 彼岸』

岩井志麻子/2014年/224ページ

庭にある鳥の巣箱に棲みついた邪悪な目。絶対に語ってはいけない話。聞いてはいけない話。書いてもいけない話。こちらが生きていることに気付かない、死者。霊を届ける女、受け取る男。「真っ黄色のワンピースを着た女」の都市伝説…。彼岸と此岸の境を失ったとき、人は人ならぬものとなってこの世を彷徨う。「あちら側の世界」に寄り添い生きる著者が聞き集めた数多の怪異から厳選。大好評の実話怪談シリーズ、第6弾!

(「BOOK」データベースより)

 

 一定以上の質は保ちながらもマンネリ感が否めないシリーズだが、この巻は意図してかせずかは知らないが、風俗ネタ、嘘つきネタ、例の女ネタは少なめになっている。あえて特色をあげるなら、彼岸の彼方から干渉してくる死者、彼岸へと足を踏み入れている生者についての話が多めだろうか。
 特に序盤は奇妙で理解しがたい、ある意味で正統派の実話怪談が並ぶ。「第十六話 語ってはいけない」はその名の通り、人前では語ってはいけない怪談についての小編だが、この「理由はわからないが本当にヤバい」と肌にピリピリ来る感覚が非常に生々しい。そういう経験が無い身としては「いつかそういう恐怖を味わってみたいものだ」と呑気にゾクゾクできるのだが。中身がわからないのに猛烈に怖い怪談、と聞くとかの『牛の首』が思い出されるが、それともまた異なるタイプの恐怖である。
 センスの無い作品ばかり作っていた、芸術家気取りの伯父。彼が孤独死したあとにアトリエを訪れてみると、信じがたい変化が起きていた…という「第十一話 才能」。都市伝説の定番「ダルマ女」に関する凄惨な目撃譚「第七十三話 ○川×美は今」。テレクラで男をからかっていた女の話が都市伝説と結びつく「第七十五話 真っ黄色のワンピース」など、奇妙さ・怖さ共に秀逸な話が多く、シリーズ中でも好みの1冊。

★★★☆(3.5)