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特殊能力を持った犯罪者たちが目ん玉ギラギラ出走です! 大荒れレースの結末は…-『人間競馬 悪魔のギャンブル』

『人間競馬 悪魔のギャンブル』

山田正紀/2010年/254ページ

新宿副都心。ビルとビルの隙間にわずかな時間立ち現れる古い城郭。空の高みで人間競馬に興じるガーゴイルたち。下界では、三人の男と一人の女がパドックを周回する競走馬さながらに互いを尾行しあっている。タクシー運転手、保険外交員の女、少年、刑事。四人が四人ともいつ、どこで相手を殺すべきか、冷酷に計算を働かせている。殺らなければ自分が破滅するだけだ。最後に生き残るのは誰だ?デスゲーム×ダークファンタジー。

(「BOOK」データベースより)

 

 この世ならざる異空間から、人間を競馬に見立てた殺人レースを楽しむガーゴイルたち。出走者はガーゴイルたちからそれぞれ特殊な能力を与えられていた。未来のトラブルを察知できる悪徳刑事。あらゆる信号を青に変えられるタクシー運転手。人の心を操ることができる保険外交員。人間の悪意を読み取れる放火魔。刑事は放火魔を、放火魔は保険外交員を、保険外交員はタクシー運転手を、タクシー運転手は刑事を、それぞれの理由を元に殺害しようとしていた。新宿駅前のウインズが歪み、出走者たちの姿がスクリーンに映し出される。最後まで生き残るのは誰なのか、悪魔たちによる人間競馬が今スタートした!

 物語は4人の出走者それぞれの過去にスポットを当て、彼らがいかにして他の出走者に恨みを募らせ、殺害を計画するに至ったのかを明らかにしていく連作短篇のようなスタイルを取っている。彼らの数奇な運命と、こじれた関係性が少しずつ明らかになっていく様がじつに楽しい。デスゲームものの参加者と言えば質より量のイメージがあるが、主要キャラを4人に絞って深堀りしていくスタイルも悪くない。

 4人は全員が犯罪者で、それぞれ特殊な能力を持ってはいるものの、意外と決め手にならない。人を操れる保険外交員がぶっちぎりで強そうに思えるが、これは軽い催眠術のようなもので本人の意志に強く反した行動はとらせることができない。タクシー運転手の信号を青にする能力も一見ハズレに見えるが、その職業柄「絶対に逃げおおせることができる逃走のスペシャリスト」というアドバンテージに繋がっている。刑事は能力に加えてコネや野生の勘もあるし、体術にも優れている。放火魔はこの中では一番若く、知性にも優れている様が見て取れる。すべての因縁が明らかになり、最終コーナーに差し掛かったレース、周囲の人間をも巻き込む大荒れの展開を見せる。多数の犠牲者が出る中、勝利をもぎ取った大穴プレイヤーとは…?

 読者もガーゴイルと同じ目線に立って、悪趣味に楽しめる。ラストはもう少したっぷり楽しみたかった気もするが、テンポと後半に向けてのスピード感は上々。払い戻しじゅうぶんのエンタメ作。

★★★★(4.0)

 

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