『乱歩R』
江戸川乱歩(原作)、保志一蔵(ノベライズ)/2004年/350ページ
日本ミステリー界に金字塔を打ち立てた江戸川乱歩の世界が現代によみがえる!名探偵の才能を受け継いだ三代目・明智小五郎が、幼なじみの堀越刑事や初代明智小五郎の助手・小林少年だった小林老人、探偵事務所所長・雷道、そして事務所の仲間、帆音ユキらとともに、難事件、怪事件に挑む!話題を呼んだドラマを完全ノベライズ。
(「BOOK」データベースより)
江戸川乱歩作品を現代風にリメイクした、日テレの22時台ドラマのノベライズ。まだまだ探偵としては駆け出しの三代目・明智小五郎(藤井隆)が、「明智小五郎探偵事務所」現所長の雷道(岸部一徳)、事務の帆音ユキ(本上まなみ)、かつて初代・明智小五郎の助手として活躍していた小林老人(大滝秀治)、熱血刑事の堀越(筧利夫)といった仲間たちと共に怪事件に挑むのだが、たいてい依頼人を守ることができず、毎回けっこうな数の死人が出る。濡れ場もそれなりに多かった。
「人間椅子」-失踪した家具職人・矢野里美の捜索の依頼が事務所に持ち込まれた。明智は里美が勤めていた工房の主、佐藤幸造に話を聞くことに。革張りの椅子を制作していた佐藤は、明智をその上に座らせて…。元ネタはもちろん「人間椅子」だが、同じ触覚テーマの「盲獣」の事件が小林老人によって語られる場面もある。ちなみにテレビ放映時のサブタイトルは「武田鉄矢 乙葉で作る人間椅子」であった。ネタバレが過ぎる。
「吸血鬼」-舞台“吸血鬼“の主演を務めることになった柳倭文子のもとに「吸血鬼は私のもの。誰にも渡さない 百合子」という不気味な手紙が届く。主演争いに敗れ焼身自殺した女優・高宮百合子の亡霊のしわざだろうか? 以前、同じ手紙が届いた脚本家の岡田は舞台の上で焼死したのだという。倭文子の身辺警護を依頼された明智だが、マネージャーも謎の焼死を遂げてしまい…。元ネタとの関連は薄めだが、“吸血鬼“というワードを基に再構成された事件自体は悪くない。本シリーズの中ではもっとも好みだった一編。
「暗黒星」-社長・伊志田鉄三の還暦パーティの最中、「罪深い伊志田家の人間は一人残らず滅びる」という不気味なメッセージが流れる。鉄三の娘・伊志田理恵の依頼で伊志田邸へ向かう明智だが、祖母のハル子、長男の秀樹が続けさまに殺害される。警察は姿を消した次男・優二を犯人と睨むが…。もっとも重要なトリックというか設定が元ネタまんまなので、逆に「そんなのアリ?」という気にさせられる。
「黒蜥蜴」-美少年が次々と誘拐される事件が発生。犯人はSMクラブ「ブラック・リザード」のオーナー、緑川夫人であった!!!! 黒蜥蜴のキャラが基から刺激的なせいもあるだろうが、安易というかヒネリのない一本。
「白髪鬼」-古本屋を営む小沼時子は、大雨の日に車の前に飛び出してきた記憶喪失の男性を保護する。記憶の断片から「俺は誰かに殺された」と怯える男性の世話をしているうち、親密さを感じ始める時子。だが、記憶を完全に取り戻した男性は、自分を謀殺しようとした相手に復讐を誓い…。「白髪鬼」に加え、「D坂の殺人事件」のテイストも含まれているようだ。不思議と「なんかイイ話」に収まっているのが良い。
「陰獣」-警備員の寒川は、「自宅の屋根裏に誰かがいる」と訴える妖艶な夫人・小山田静子と知り合い、彼女の頼みで邸を警備することになる。一方、寒川の婚約者からの依頼で、行方知れずになっていた寒川を捜索していた明智も小山田邸を訪れた。静子は「ネット作家の大江春泥から脅迫状を受け取った」と明智に相談する…。いろいろごちゃついてる話だが、ラストのモヤモヤ感は元ネタっぽくて悪くない。
「地獄の道化師」-遊園地「ミラクルネオパーク」を経営する一家の娘、野上愛子のもとに「呪われた遊園地に地獄の道化師がやって来る」というアバウトな脅迫状が届く。愛子は婚約者の白井透とともに明智探偵事務所を訪れ、明智が警護することになるが、毎度の如く愛子の姉の美彌子、叔母の佐代子が犠牲となってしまう。明智は怪しいピエロ姿の男を追い詰めるが、ピエロは足を滑らせて転落死。その正体は野上家の使用人・綿貫であった。事件は解決したかに見えた、が…。この話も重要なトリックや犯人の特徴が元ネタそのまんまだったりする。
「化人遊戯」-ミステリ作家・姫田吾郎のもとに‟白い羽根”が届けられる。コナン・ドイルの『五粒のオレンジの種』を思い出し、恐れた姫田は明智に警護を依頼した。明智は姫田に同行してミステリ界の大御所・大河原義明の邸宅でパーティに参加。大河原とその妻・由美子と共に、大河原の趣味である双眼鏡に付き合っていたが、パーティの参加者である編集者の村岡が崖から落下する場面を見てしまう…。元ネタで主人公格だった庄司武彦は大河原の秘書として登場。元ネタと完全同名のキャラがここまで多いのは逆に珍しい。
「怪人二十面相」-犠牲者をデコレーションして街中に設置する「ディスプレイ殺人」が連続発生。そして明智家の墓が何者かによって荒らされる。さらには所長の雷道が行方不明。なんかいろいろな事件が起きる中、明智は「25年前に行方不明になった父を探してほしい」という依頼を受ける。それが明智探偵事務所にとって、非常に重大な結果をもたらすとは知らずに…。ついに姿を現した二十面相だが、その「正体」はわりとバレバレ。すぐ「光と闇」とか言い出す辺りも陳腐ではあるが、最後の相手としての格はまあまあであった。
トリックだの登場人物だのは原作に寄せてはいるものの、『犯罪乱歩幻想』のようなトリビュート作品の小説と比べると、やはり“雰囲気”の再現度は今一つである。明智が殺人者に出し抜かれるパターンが多すぎて、名探偵っぽさが微塵もないところもわりと残念。シリーズものの探偵ドラマとして見ればそう悪くはないのだが、やはり背負う看板が大きすぎた気が…。
★★☆(2.5)

