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明智小五郎入門編。一時の享楽と長年の怨讐、正反対の性質を持つ2つの怪事件-『屋根裏の散歩者 江戸川乱歩ベストセレクション③』

『屋根裏の散歩者 江戸川乱歩ベストセレクション③』

江戸川乱歩/2008年/241ページ

世の中の全てに興味を失った男・郷田三郎は、探偵・明智小五郎と知り合ったことで「犯罪」への多大な興味を持つ。彼が見つけた密かな楽しみは、下宿の屋根裏を歩き回り、他人の醜態をのぞき見ることだった。そんなある日、屋根裏でふと思いついた完全犯罪とは―。表題作のほか、とある洋館で次々起こる謎の殺人事件を描いた「暗黒星」を収録。明智小五郎登場のベストセレクション第3弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 名探偵・明智小五郎が登場する2編を収録。角川ホラー文庫で1994年に刊行された『屋根裏の散歩者』とは収録作がまったく異なる。

 「屋根裏の散歩者」は人生に飽きた男・郷田三郎が、住んでいる下宿の屋根裏に忍び込めることを知り、住人の生活を覗き見するようになる。屋根裏の密かな散歩を楽しんでいるうちに、三郎はいけすかない住人を殺害する方法を思いつき、それを実行に移してしまう…。殺害方法は単純極まりなく、明智の推理も大したものではないのだが、本作の良さは「犯人の背徳的な愉しみ」を共有できる点にある。つまらない人生を送ってきた三郎が、屋根裏という自分だけの領域をいかに楽しんでいるかが、読者にもひしひしと伝わってくるのだ。三郎が「ちょっと気に食わない」程度の相手を殺してしまうのは、捕まらない自信があったからというだけのことで、このあまりにも軽い動機も含めて非常に個性的な犯人である。

 「暗黒星」は、とある洋館で暮らす一家が次々と殺害され、明智も黒覆面の犯人に撃たれて重傷を負い大ピンチ…という中編。ぶっちゃけ真犯人の正体はかなり早い段階で推察でき、トリックも「屋敷の隠し通路」だし、明智が見つけた物証もムリヤリ感が漂うもの。とは言えテンポよく楽しく読めるのは確かで、犯人の動機も「長期に渡るとてつもない恨み」であり、そのすさまじい執念は確かにホラーである。「犯人の不幸な生い立ち」パターンは近年の探偵モノ漫画などでさんざんやられている展開だが、それでもインパクトはある。

★★★☆(3.5)

 

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