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“読者視点”がいちばん残酷。歪みきった愛はかえって純愛なのか-『恋愛禁止』

『恋愛禁止』

長江俊和/2023年/256ページ

瑞帆の前に現れた3人の男――。1人は、ある時期、彼女の世界の中心だった。だが、いつしか愛情は憎しみに変わり、口論の末、彼を衝動的に殺してしまう。発覚を恐れた瑞帆だったが、一向に殺人は露呈しない。そのことに戸惑う中、知人の紹介で知り合った男と交際を重ね、やがて子供を授かる。そしてもう1人は、純粋さの果てに歪な愛を向けてきた……。彼らは瑞帆に何をもたらしたのか。恋愛の“業を描き出す戦慄の長編!

(Amazon解説文より)

 

 加筆により、単行本版とはまったく異なる読後感となった。ここまで来ると完全に別物である。帯には「再読必至!」「あなたには隠された秘密が分かるだろうか……」と挑発的な文句が並んでいるが、正直なところかなり分かりやすい部類なのでモヤモヤはしないはず。

 

 ストーカー気質のDV男・隆に追われ、追いすがられ、追い詰められ、瑞穂は街中の駐車場で、彼の喉にサバイバルナイフを突き立てた。現場から逃げ出し、事件発覚におびえる瑞穂だったが、殺人は一向に発覚することが無かった。まるで隆という人間そのものが消えてしまったかのように…。

 数年後。夫の慎也、娘の美空とともに穏やかな毎日を過ごす瑞穂の元へ、見知らぬ相手からのメールが届く。「突然のメールをお許しください あなたとお話したいと思って連絡しました」「私はすべてを知っています でも安心してください 私はあなたの味方です」「返信頂けずとても残念です こう書けばお返事もらえるでしょうか 私がお話したいのは、あの夜の駐車場の件です」――。そう、瑞穂の殺人はすべて何者かに見られていた。一方的な崇拝と愛を瑞穂に向けるその男は、隆以上の邪悪な存在として瑞穂の前に現れた…。

 

 序盤で語られるゲボカス人間・隆の行動があまりにも酷く、そんな男のために殺人という咎を背負ってしまった瑞穂への同情を禁じ得ない。彼女を襲う不幸の連鎖を、「はぁ~大変お気の毒スなぁ」と無責任にワクワクしながら読み進める読者を襲う、最後の最後でのカウンターパンチ。読者と視点を同じくする「傍観者」の残酷さを真正面から突き付ける、あまりにも救いのないオチに心冷える。本作で描かれている愛はすべて歪んだ愛だが、歪みに歪み切った愛は傍からはまっすぐに見えるものなのかもしれない。

★★★☆(3.5)

 

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