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属性盛り過ぎの女怪盗・黒蜥蜴のキャラクター性が強烈!-『黒蜥蜴 江戸川乱歩ベストセレクション⑤』

『黒蜥蜴 江戸川乱歩ベストセレクション⑤』

江戸川乱歩/2009年/221ページ

社交界の花形で、腕に黒いトカゲの刺青をしたその女は、実は「黒トカゲ」と呼ばれる暗黒街の女王、恐るべき女賊であった。とある宝石商が所有する国宝級のダイヤを狙う黒トカゲは、娘の誘拐を図る。身辺警護を引き受けた明智小五郎の想像を超えた作戦で、黒トカゲは娘の誘拐に成功したのだった。明智と黒トカゲの壮絶な対決の行方とは…。切ない結末が胸に迫る、ベストセレクション第5弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 名探偵・明智小五郎と稀代の女怪盗・黒蜥蜴との対決を描く。本作の魅力はもう、黒蜥蜴のキャラクターに尽きる。腕に黒いトカゲの入れ墨をした美貌の怪盗であり、そのターゲットは国宝級のダイヤモンド。さらに自らのコレクションを集めた博物館をアジトに構えており、美しい男女を蝋人形にして展示してしまおうという猟奇的な計画も立てている。部下は裏社会に幅広いコネを持つ彼女によって命を救われた者も多いらしく、カリスマ性は相当なもの。さらに女言葉と男言葉をチャンポンで話し、一人称も「あたし」と「僕」の両方を使う(この設定は前半だけだったが)。さらにさらに、彼女にはエキシビショニズム(露出癖)があり、なんの意味もないのに部下が見ている前で全裸になったりする。90年前の小説のヒロインとは思えないほどの属性過多っぷり。盗賊としての実力も確かで、明智小五郎に2回続けて敗北を味わわせるほどである。

 推理小説としては正直なところ、トリックに見るべき点は無い(かの「人間椅子」が誘拐の手段として使われたりするが)。中盤以降の敵も味方も変装・変装・また変装ですべてが片付いてしまう御都合主義にはワンパターンさを感じるし、黒蜥蜴のせっかくのエキセントリックな個性もどんどん薄れてしまったりと、残念な部分も多い。が、そうした小説としての短所をきらびやかに覆い隠すほどに、黒蜥蜴というキャラクターが強烈なのである。冗談抜きで今現在でも通用する悪役ヒロインではなかろうか。

★★★☆(3.5)

 

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