『ダムド・ファイル 「あのトンネル」』
原案:井川耕一郎、万田邦敏 著:斉木晴子/2004年/216ページ
その日、カーナビが示したのは、愛知県北東部の山中にある「伊勢神トンネル」。だが、実際に目の前に現れたのは「伊世賀美」と書かれた古びたトンネルだった。「そのトンネルに行けば死者に会える」―それは単なる噂話のはずだったが、愛するわが子を失った夫婦がそこで見たものとは…。「お父さん。寒いよ。寂しいよ…」闇に潜む子供は、果たしてわが子なのか?名古屋発のホラードラマ「ダムド・ファイル」シリーズから、噂の“心霊トンネル”を舞台にした、スペシャル版が登場。
(「BOOK」データベースより)
名古屋テレビ制作のホラードラマ「ダムド・ファイル」の、シーズン2直前に放映された90分スペシャル版のノベライズ。死者に出会えるという噂が立つ伊瀬神トンネルにまつわる話である。
鷹取隆と美沙子、明、繁の一家はごく普通の幸せな家族だったが、次男の繁が事故で死亡する。悲しみは2年後も癒えることは無く、長男の繁は内向的になり、美沙子は繁の骨壺を離そうとせず、夫婦仲もぎくしゃくしていた。
隆は末期癌に侵された叔父・秀二を見舞うが、秀二は今まで誰にも話したことがないという不思議な体験談を語り始めた。死者に会えるという噂のトンネルで、亡くなった息子のことを強く想う。すると助手席の窓から、懐かしい子供の顔が見えた。だがその顔が黒く歪み、獣のような声を上げて乗り込もうとしてきたので夢中になって逃げてきたのだと。
一方、明は「死んだ猫の骨に血をしたたらせ、埋めておくと猫が生き返る」という儀式のことをクラスメイトから聞く。明は自分の手を切り、繁の骨壺の中に血をしたたらせる…。そして美沙子は、トンネルの中にたたずむ小さな人影を夢で見るようになる。隆と美沙子と明、一家三人の元へ「繁だった何か」が近づいていた。
オカルトスポットそのものよりも「身内を亡くした家族の悲哀」が物語の中心である。事故で死んだ息子・弟に対し、後悔の念が消えない一家の哀しみがこれでもかというほど詳らかに描かれており、こちらも沈鬱な気分になってくるほど。ただ、この悲しみの描写が念入りなおかげで、愛する家族が邪悪な何者かと化す恐怖が活きてくるのである。
死んだ家族が生前とは異なる姿で帰って来る…というストーリー自体は『猿の手』や『ペット・セメ(マ)タリー』が元ネタと思われ、作中でも言及されていたりする。本作が秀逸なのはラストの展開で、「まるで救いのない、いかにもホラー的な締め」と「救いと癒しをもたらす、ファンタジー的な締め」を両立させているのである。このラストのおかげで本作は、単なる過去の傑作ホラーの模倣に終わらずに済んでいる。
★★★(3.0)