角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

グロテスク特化と思いきや、幽霊・ロボット・宇宙人・妖怪も入り乱れる百花繚乱のフリークショー!-『臓物大展覧会』

『臓物大展覧会』

小林泰三/2009年/384ページ

彷徨い人が、うらぶれた町で見つけた「臓物大展覧会」という看板。興味本位で中に入ると、そこには数百もある肉らしき塊が…。彷徨い人が関係者らしき人物に訊いてみると、展示されている臓物は一つ一つ己の物語を持っているという。彷徨い人はこの怪しげな「臓物の物語」をきこうとするが…。グロテスクな序章を幕開けに、ホラー短編の名手が、恐怖と混沌の髄を、あらゆる部位から描いた、9つの暗黒物語。

(「BOOK」データベースより)

 

 「臓物展覧会」なる看板が掲げられた小屋に入った男。中では無数の臓物たちがそれぞれの物語を語り始めた…。という悪趣味なプロローグで期待を募らせてくれる短編集。プロローグと巻頭作、巻末作は書き下ろしで残りは雑誌やアンソロジーが初出。グロテスクなホラーとブラックなSFが主体で、どちらも“汚い中身”を開陳するという意味では同じかもしれない。

 

 「透明女」-卒業から5年後、影の薄かったクラスメイト・ノブちゃんが急に連絡してきた。彼女は文字通りの“透明女”になったのだという。彼女はかつての同級生たちのボディをも透明にするため、肉体をバラバラにして…。「ウロボロス」を人間に当てはめるアイデアと、ただひたすらにグロいボディ交換描写が楽しい一品。

 「ホロ」-生前の人間とまったく同じ行動を取る“幽霊(ホロ)”が浸透した世界での、実在を巡る問答。何やら「哲学的ゾンビ」を彷彿とさせる話である。異形コレクション『心霊理論』収録作。

 「少女、あるいは自動人形」-人間と見分けが付かないほど精巧な自動人形…というおなじみの題材を二捻りした短編。ネスレのお菓子「クリスピー物語」付録の文庫本収録作で、テーマは“殻を脱ぐ”とのこと。

 「攫われて」-ある日唐突に、恵美は僕に対して「小学生の時に誘拐された思い出」を語り始めた。恵美とその友人を含む3人がとある間違いで男に誘拐されるが、1人が事故で死んでしまう。やけになった誘拐犯は恵美と友人を監禁。彼女らは知恵を尽くして誘拐犯に立ち向かうが…。緊迫感溢れる誘拐犯との対峙と、そりゃないぜというオチが印象的。

 「釣り人」-知人のエヌ氏と共に釣りに出掛けた主人公だが、そこで不思議な体験を…。知人の名前も含め、星新一を彷彿とさせるSFショートショート。三洋の機関紙「YOU&I」初出。

 「SRP」-世界各地で地震・台風・津波・竜巻・噴火といった10年に1度級の天変地異がいっせいに起き、大パニックが発生。さらに巨大な骸骨や妖怪が出現する。厄介者が集められた閑職組織・科学捜査研究隊ことSRPも雰囲気で出動するが、隊員の1人が「カプセル妖怪」の使い手だったので無事妖怪を退治できた。行け、SRP! 妖怪たちをブッ倒せ! …という特撮パロディじみた物語の裏でハードSFが展開する珍作。妖怪大戦争をテーマにした競作集『稲生モノノケ大全 陽之巻』収録作。

 「十番星」-厭味なクラスメイトが「太陽系十番目の惑星を発見した!」と主張。地球に極めて近い位置にある“十番星”は、特殊なバリアを張っているため今まで発見されなかったのだという…。仄暗い想像力がきらめくヤングアダルト向け侵略SF。

 「造られしもの」-ロボットが人間に尽くす未来。異様にロボットを憎むその男は、従順な彼らに様々な横暴を働くが、ロボットたちは誠実に男に仕え続け…。芸術的活動の分野をAIに支配されつつある現在、絵空事ではないリアリティが心に沁みる一作。

 「悪魔の不在証明」-人口50人の小さな村に、聖書を手に神の教えを広めようとする男・貫不見(ぬくみず)がやってきた。主人公はよそ者の彼を胡散臭く見ていたが、村人たちは親切な貫不見を好意的に迎えていた。主人公は演説中の貫不見に対し「神の存在を証明して見せろ」と議論をふっかけるが、「だったらお前が神が存在しないことを証明しろ」と村人たちに言われ、窮地に陥ってしまう。最終的に何も反論できなくなってしまった主人公が苦し紛れにとった手段とは…。作者らしい論理的な会話が楽しめる一本で、レスバに敗北し続ける主人公の無様さが見もの。

 

 古典的な題材を扱ったSFも多く、これだけインパクトのあるタイトルならもっとグロテスク方面に偏らせてもよかったと思うが、個々の作品はどれも楽しく読めた。いろいろと振り切っている「透明女」「SRP」がお気に入り。

★★★☆(3.5)

 

◆Amazonで『臓物大展覧会』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp