『くらら 怪物船團』
井上雅彦／1998年／328ページ
原因不明の事故で沈没したクルーザーには、恋人が乗っていた。未確認の情報を元に、結城が駆けつけた港町には、異様な現象が起こりつつあった。曲馬団の箱、獣の檻、朽ち果てた道化人形…。奇妙な漂着物を拾った者たちに怪異が憑依し、伝説の殺人鬼が臨海学園に復活する。謎の少女クララの正体とは。
(｢BOOK｣データベースより)
“クララ”というあだ名で呼ばれている恋人の牧村奈美が、同じ大学の教授とともに乗っていたクルーザーが沈没したと聞き、結城瞬介はあわてて現場である行灯ヶ浜へ向かう。沈没直前のクルーザーは｢不可解な海面の発光｣｢虹の色｣｢温度の急低下｣といった異常事態を告げていた。この海で何らかの異変が起きようとしている。
サーカスとフリークス、クトゥルフ神話、サイコキラー、グロテスクな怪物、果てには巨大○○と、作者の好きなものだけをブチ込んだヴンダーカンマー的な長編である。この盛りだくさんぶり、過剰なほどのサービス精神には驚愕せざるを得ない。いろいろな人物のエピソードを連ねることでひとつの事件を複数の視点から追いかけていくというモダンホラーでもおなじみの構造なのだが、正直なところいくらなんでも登場人物が多すぎて尺が足りていない印象を受ける。主人公格の結城のほか、地元の海の開発派(政治家・ヤクザ)と反開発派(地元の漁師)、開発派主要メンバーのバカ息子・アホ娘たちの不良グループ、謎の殺人鬼とそれを追う女刑事などが入り乱れるのだ。エピソードの書き込みが足りず｢コイツ誰だっけ？｣と思わされることもあるが、以下に本作の登場人物をあげてみよう。これを頭に叩き込んでおけば混乱はしないはずである。
結城瞬介 …大学生。映画評論志望。
牧村奈美 …大学生。民俗学専攻。あだ名は“クララ”。
青柳不澪 …異形民俗学ゼミ担当の大学教授。あだ名は“青髭教授”。
岸未知子 …奈美の友人で、中等部からの同級生。
関口伸夫 …行灯ヶ浜の現・灯台守。
沢村千尋 …前灯台守の息子。
敷島医師 …海洋調査団の医者。
鵜沢 …海洋調査団の主任調査員。
斑尾 …龍仁興業の若頭。右手の爪で相手を切り裂く武闘派。通称“ジャガー”。
鬼庭 …龍仁興業幹部。斑尾の部下でスキンヘッド。
桜井勤 …反開発派の弁護士。斑尾に妻もろとも殺害される。
桜井和代 …桜井弁護士の妻。
仁藤龍吉 …龍仁興業・代表取締役。
堂島礁次 …漁師。反開発派のリーダー。
堂島竜太 …礁次の弟。学校嫌いで漁師になりたがっている。
丹下 …巨漢の漁師。反開発派。
沢村 …老漁師。地元の伝説に詳しい。元・灯台守。
月岡大悟 …ツキオカ・コンツェルン社長。ミッドサマー・ホテルのオーナー。
月岡大膳 …大悟の父。現在は痴呆状態。
月岡雪枝 …大悟の妹。堂島礁次と恋人関係にある。
緑川慎助 …衆議院議員。
緑川夫人 …旧侯爵家。息子の慎次を徹底的に甘やかしている。
森山春樹 …海底資源開発公団の代表。開発派。
加賀見倫夫 …漁業組合長。開発派で漁師からは裏切り者扱いされている。
サエコ …森山の愛人。
花房重吉 …漂着物を拾い集めて暮らす世捨て人。
緑川慎次 …高校生グループのリーダー格。緑川慎助の息子。
仁藤亜紀 …高校生。慎次の彼女。仁藤龍吉の娘。
森山冬樹 …高校生。森山春樹の息子。
潤子 …高校生。冬樹の彼女。
加賀見倫子 …高校生。密かに慎次に恋している。加賀見倫夫の娘。
石森優子 …刑事。警視庁の機動捜査隊長。連続殺人鬼を追っている。
政宗 …地元の警察署の刑事。石森に同行する。
盛田寛子 …青柳教授と抱き合った姿で死亡しているところを発見された。
日高三郎 …ミッドサマー・ホテルの客室係。
バックベアード …連続殺人鬼。少年少女の身体を切り裂いて標本を作製した。
クララ …結城が子供時代に出会った、菫色の瞳をした少女。
…やっぱり多いな。300ページほどの長編で出していい人数ではないと思うが、これだけの登場人物を出しながら物語は破綻なく紡ぎあげられている。B級なエログロと格調高いゴシックな雰囲気を兼ね備えた、お好きな人にはたまらない逸品。中身が鬼殺しのウイスキーボンボン。
★★★☆（3.5）
